コロナ禍の中、成立目指した3法案「年金」「種苗」「スーパーシティ」 坂東太郎のよく分かる時事用語
「個人情報」の一元管理と「住民合意」の担保
主要な争点は、この構想の実現には個人情報はもとより、行政や民間企業などが持つ膨大なデータを集積し、一元管理する必要がある点です(「データ連携基盤」整備事業)。住所、氏名、年齢はもちろん、位置情報や既往歴、職業、金融機関の口座状況などは、上記のような複合的で一体的な先進的サービス提供の仕組みを円滑かつ迅速に動かすには欠かせません。現在は行政や企業を信頼し、サービスに納得した上で提供している個人情報が、こうした目的にも連動して使用される可能性があります。 すでに実用化されている顔認証システムも、先に例示したサービス促進には不可欠ですから、防犯目的のデータが別の用途に転用されます……というより、転用・連動させなければスムーズなサービス運営ができません。対象が生活そのものですから。 結局のところ、便利なのは間違いない「スーパーシティ」の恩恵に浴するには個人情報を国や地方自治体、企業などに渡しても構わないという住民の合意が得られるか、得る仕組みがつくれるかというところが肝といえましょう。 このスーパーシティ構想を実現する「国家戦略特区」に選定されるには、担当大臣・自治体首長・首相が選定した民間事業者らで構成する「区域会議」で事業計画を作成し、首相に提出します。その後、各省庁での検討を経て、認定されますが、「区域会議」で対象となる地域住民の総意が反映されるのか疑問という声もあり、この住民合意をどう確保するのかが課題となっています。
国家戦略特区といえば……
個人情報が一元的に集約されて“監視国家”になりかねない、という不安や反発は住民基本台帳法改正(1999年可決成立)でスタートした住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)や、2013年に関連法律が成立し、2016年から運用開始したマイナンバー(共通番号)制でも指摘されました。どちらも法律ができたのに、住基ネットは事実上お蔵入り、マイナンバーも運用に必要なカードの普及率が低迷したままです。 スーパーシティが国家戦略特区として開始されることに違和感を持つ人もいます。国家戦略特区とは、第2次安倍政権発足で唱えた看板政策「アベノミクス」3本の矢のラストを飾る「成長戦略」の一環で、2013年からスタートしました。成長を阻む要因としてさまざまな規制があり、一部地域で規制を緩めて効果があれば全国へ広げようという実験的な意味合いも込められている手法です。内閣府のウェブサイトの文言をそのまま借りると「総理・内閣主導の枠組み」で「岩盤規制」改革の突破口となるのが目的です。 ゆえに認定権のある首相の「腹一つ」で決まるのではないか、との懸念がそもそも抱かれている制度です。象徴的なのが「加計学園問題」でした。
------------------------------------------ ■坂東太郎(ばんどう・たろう) 毎日新聞記者などを経て、日本ニュース時事能力検定協会監事、十文字学園女子大学非常勤講師を務める。著書に『マスコミの秘密』『時事問題の裏技』『ニュースの歴史学』など