コロナ禍の中、成立目指した3法案「年金」「種苗」「スーパーシティ」 坂東太郎のよく分かる時事用語
支給年齢引き上げの一里塚?
先に述べたように、公的年金の受給開始は原則65歳から。厚生年金は1961(昭和36)年4月2日以降生まれの男性と1966(昭和41)年4月2日以降生まれの女性が対象になります。ただ現行法でも「60歳」からの繰り上げ支給も「70歳」までの繰り下げも選択が可能。繰り上げれば1度にもらえる金額が減り、繰り下げれば増えます。国民年金ベースだと、支給開始を70歳まで待てば月約6万5000円が約9万2300円にアップ。 今回の法改正は、さらに75歳まで繰り下げられるようにするという内容で、仮にそこまで待てば月約11万9600円にまで膨らむ計算です。 厚生労働省などの説明では、定年退職後にも働く意欲が高く、かつ仕事もある高齢者にはその収入で年金に頼らない生活を送ってもらい、その後の備えを一層充実させるのが狙いなのだそうです。もちろん支給年齢65歳が75歳に後ろ倒しされたら、その分だけ年金財政が助かるという思惑もありましょう。 ただそううまくいくかどうか。今でさえ約3分の1が繰り上げ支給を選択しているのに対し、繰り下げの方は1%程度です。高齢者の2人に1人が「収入は年金のみ」と答えている現状では当然の数字です。 何より「死ぬまで」という条件がやっかい。人はいつ死ぬか分からないので、「バリバリ働くぞ」と思っていても75歳まで働けるかどうかなど誰にも分かりません。 この法改正に警戒する声として、「支給年齢引き上げの一里塚ではないか」という推測も。原則60歳から65歳へと引き上げられたのは案外と最近です。
中小企業のパートらにも厚生年金
厚生年金は、正社員・正職員のようにフルタイムで働いている従業員は勤務先の規模に関係なく加入義務が課せられています。厚生年金のいいところは「2階」部分が加算されるのみならず、負担が「労使折半」という点。保険料の半分は会社側が持ってくれるのです。 計算式が異なるので一概に言えないとはいえ、国際比較しても「会社が半分負担」は、ともすれば「中負担、高福祉」などとからかわれる日本の福祉政策でも飛び抜けた「高福祉」。言い換えれば勤め人にとってありがたい制度です。 しかし、今や労働者の約4割を占める非正規雇用(働く期間が決まっている雇用、短時間の勤務など)の人たち(うちパートタイマーが約半数)の多くが恩恵を受けられていません。現行法では、 ・従業員501人以上の企業規模 ・週20時間以上の労働 の条件を満たせば厚生年金加入が義務づけられています。「501人」という数字は中小企業基本法が定める「中小企業者の範囲及び用語の定義」を大きく上回るので、まず大企業といって差し支えなさそうです。ちなみに従業員数でいうと大企業は全体の約3割に過ぎません。 改正案はこの「501人」の基準を2022年10月に「101人」、24年10月に「51人」と2段階で引き下げるというもの。新しく約65万人が将来、公的年金の「2階」部分も受給できるようになります。国民年金のみの月額約6万5000円だけで国内で暮らせる人は少ないでしょう。そうした人に老後の備えを手厚くしようという試みといえます。国側も年金財政がいくらか潤います。 働く期間も現行の「1年以上」から「2か月」超へと短縮されます。労使折半は「公的医療保険」にも適用されるので、非正規雇用者にはダブルでお得です。 一方、当然ながら新たに対象となる企業の保険料負担は純増します。小規模事業主にとって、年金を含む社会保険の負担は今でもズッシリ重いところで、さらなる義務化はつらい。福祉を企業が支える従来からの方式を踏襲するだけでいいのかという議論も起きています。 パートの主な担い手である主婦(「学生」は加入義務から除かれているため)にとっても痛しかゆし。現行法でも先の「501人以上」「週20時間以上」「1年以上の勤務」に「賃金月額8.8万円(年約106万円)以上」の条件がそろうと、自己負担ゼロの「第3号被保険者」から外れ、厚生年金に強制加入されます。法改正でその範囲がさらに広くなるのです。将来をおもんぱかれば得なのかもしれませんが、たった今を見ると負担増。さあどうするかと悩ましいところです。