検察官の定年延長問題 忘れてはいけない3つのキーワード
有名人による反対表明のツイートが拡散されるなど審議の行方が注目を集めていた検察庁法改正案は、1週間で急転直下の展開を見せました。週明けの18日に今国会での成立見送りが報じられ、継続審議となる公算になりましたが、20日には、閣議決定で定年延長された東京高検の黒川弘務検事長が記者と「賭けマージャン」をしていたことが週刊文春に報じられ、黒川氏は22日に辞任。改正案は廃案も取り沙汰されている状況です。 【写真】ロッキード事件の闇が晴れない日本政治の不幸(上)「総理の犯罪」の衝撃 今回の一連の問題では、「三権分立」「法の支配」「民主主義」などといったキーワードが浮上し、単なる人事を超えた問題として議論されました。上智大学国際教養学部の中野晃一教授(政治学)に、どんな問題を内包しているのかを聞きました。
●「三権分立」の原則に反する
今回の検察庁法改正案が、国会審議などを通じてもっとも議論を呼んだ部分は「検察幹部人事への政治介入の懸念」でしょう。これが「三権分立」の原則を揺るがすとの指摘がありました。中野教授も「なぜこの改正法案がいけないのかの本質」だといいます。 「検察の最高幹部に関して、内閣の一存で役職定年を延長するか、しないかを決められるようにする。その意味は、検察幹部に対する政治支配を行ってしまうことになり、人事に介入できる形になってしまう。『この幹部は(政権の)言うことを聞かない』となれば、役職定年を延長しない、というふうに」 改正案の内容には、検事総長の定年(現行は65歳)を「内閣が定める事由」がある場合に最長3年間延長できるほか、次長検事、検事長ら検察幹部については63歳を「役職定年」として一般の検事になるものの、「内閣が定める事由」がある場合には、そのままポストに最長3年間とどまることができる――などの特例規定が盛り込まれています。この「内閣が定める事由」の部分が、政権による恣意的な運用を招くのではないかと問題視されていたのです。国会審議の中では、特例規定の明確な運用基準がないことも明らかになりました。 安倍晋三首相は、検察官も行政官であり、内閣ないし法務相が任命する点を引き合いに出して、「今回の改正で、三権分立が侵害されることはもちろんないし、恣意的な人事が起こるようなことは全くないと断言したい」と懸念を否定しました。しかし、中野教授は、公訴権を独占している検察官の特殊性に着目し、こう指摘します。 「総理大臣さえ起訴することができるのが検察の持っている力。そこを(権力側が)押さえれば“全権”を掌握することになりかねない。行政官僚の中でも準司法的な役割を果たす検察官という特別な位置づけを考えると、三権分立の原則に反するところまで踏み込んでしまっている」