本格運行か撤退か 大阪市「オンデマンド交通」実験は23年度が正念場に
予約に応じて乗り合い運行する「AIオンデマンド交通」の大阪市での社会実験が、今春で3年目に入りました。実験を行うのは大阪市高速電気軌道(大阪メトロ)とWILLERグループですが、大きな課題は採算をいかに確保するか。「いつまで続けるのか」という声もあり、23年度は実験を経て本格運行を目指すのか、それとも撤退かを判断する重要な年度となりそうです。 【拡大写真】かつて大阪市内を走っていたコミュニティバス「赤バス」
大阪メトロ「運賃収入だけで採算の確保は困難」
「AIオンデマンド交通」は、同じ時間帯に複数の予約が入った時に、AIで最適な運行ルートを割り出す交通機関です。効率的な運行が期待できるとして、各地で導入に向けた取り組みが行われています。 大阪市は20年、AIオンデマンド交通の社会実験を行う事業者を公募。選考で選ばれた大阪メトロは、21年3月から生野区と平野区で、22年4月からは北区と福島区でも実験を行っています。同年4月からは、鉄道やバス事業を展開するWILLERグループも大阪メトロと同じく北区・福島区で実験を開始。なお、現在WILLERグループの実験は、子会社のCommunity Mobilityが担っています。 両社ともこの実験で課題となっているのは、支出が収入を上回る赤字状態であること。大阪メトロは、今年1月に開かれた大阪市の地域公共交通会議で、運賃収入だけでは採算の確保が難しいことを説明。運行費をはじめとする支出を減らす一方、車両数の拡大によって予約への対応件数を増やすとともに、他企業の従業員輸送など関連サービスの収入も加えて、収支を均衡させたい考えを示しました。
WILLER「KPIの達成度合いを測った上で見極めたい」
WILLERグループも1月の会議で、支出が収入を上回る状況にあることを説明。今後は、有料会員数・家族会員数・運行効率をKPI(主要経営指標)に設定して、これら3指標の向上によって事業継続を図る方針を示しました。 会議では、大阪市都市交通局が「この社会実験は、1年間という期間を区切ったところでスタートしたところであり、容易に期間を延長するのは容認できない」、大阪タクシー協会も「いつまでも社会実験を続けることが本当に良いのか」として、実験を何年も続けることに否定的な考えを示しました。 これに対して大阪メトロは「1年間実験を継続して、撤退するのか、本格運行するのかを見定めたい」、WILLERグループは「(社会実験を続けるかどうか)来年度のKPIの達成度合いを測った上で見極めたい」として、いずれも23年度の実験で、各実験エリアにおけるAIオンデマンド交通の事業性に何らかの見通しをつける方針を示しました。