白亜紀末大絶滅はなぜ起きた?(上)-“化石記録”ミステリーの歴史
地球は46億年前に誕生したといわれています。そして生命は約40億年前に生まれ、わたしたちホモ・サピエンスの種が初めて現れたのは、およそ20万年前。地球の長い歴史を1年に置き換えた場合、人類は12月31日午後11時半過ぎにようやく出現したと例えられるほど、わたしたち人間の歩みは実は、とても短いものです。 人類出現まで、地球はどのように環境を変え、生き物はどのように進化してきたのか―。古生物学者の池尻武仁博士(米国アラバマ自然史博物館客員研究員・アラバマ大地質科学部講師)が、世界の最新化石研究について報告します。 ----------
「多くの生物種ははるか昔―太古の時代に滅びてきた」。 このアイデアは21世紀の今日、至極当たり前に響くかもしれない。例えば中生代の恐竜や氷河期のマンモスのいわゆる「絶滅」は、多くの人々にとってほとんど「事実」として信じられているはずだ。しかし生物種が過去にこの地上から永遠にその姿を葬り去ったというコンセプト(=概念や考え方)は、今からわずか200年くらい前に初めて提唱されはじめたものだ。そしてこのアイデアは発表された時、当時の西ヨーロッパの社会および多くの地質学者を含む科学者から「猛反発」を受けた。この歴史上の事実をご存知だろうか? サイエンス史上初めて「絶滅」というコンセプトを(サイエンス的仮説として)提唱したのはフランス人生物学者ジュージ・キュビエ(1769-1832:脚注1参照)といわれる。パリの自然史博物館に所属し、後に比較解剖学の父と呼ばれる通称「バロン(男爵)・キュビエ」。生存時に大科学者としての地位・名声をすでに手に入れていた。生物学上さまざまな業績を残し、現世から化石動物の骨格にも精通していた。18世紀中頃、大発展を遂げていたパリ郊外の建築現場から実に多くの奇妙な大型の哺乳類などの化石骨格が多数発見されては、彼のもとへ運ばれてきた。その中には例えばマンモス(像)、大型のナマケモノの仲間など現在のヨーロッパでは見かけられない哺乳類の種が含まれていた(現在パリ自然史博物館でキュビエの研究した標本が幾つか展示されている)。「どうしてパリからこんな(一見)風変わりな動物の骨が見つかるのだろうか?」。当時の人々にとっては非常に大きな謎だった。 現在こうした化石骨格は「氷河期に生存していた大型哺乳類」として知られている。しかし今日当たり前の事実とされる現象も、当時の人々(特に科学者)にとって非常に大きなミステリーだった。キュビエの導き出した答えは「太古の昔に滅んだ種」が化石として見つかったというものだった。ちょうど1800年に入る少し前のことだ(脚注2参照)。