なぜ「iPhone8」はいまだに人気なのか? 専門店に聞いた中古スマホ市場の“いま”
年々価格高騰が止まらないスマホ業界。最新モデルの価格は当たり前のように10万円を超えてきて、昔のように気軽に買い換えを決断することも難しくなってきた。そんななか注目を集めているのが、“中古スマホ市場”だ。 【写真】衝撃の激安iPhoneも! 専門店の中古スマホ売り場の現在 とはいえ、「中古スマホって実際どうなの?」と感じている人も多いはず。そこで今回は『ゲオモバイルアキバ店』店長の氷見氏に、最新の“中古スマホ市場”について語ってもらった。 ・注目され始めたのは、意外と最近? 今回訪れたのは、電気製品において最先端の地でもある秋葉原。だが、中古スマホが注目され始めたのは意外にも最近だという。「中古スマホ自体はかなり前から販売しているのですが、お客さんに認知されたと感じるようになったのは、ここ2、3年ですね。昔は『中古スマホって何?』『大丈夫なの?』と思われることも多かったのですが、最近は中古スマホの購入を目的に来店される方がかなり増えました。でも、まだまだ『中古スマホって?』と感じている方は多いと思います」 かくいう筆者も、中古スマホを意識し始めたのは最近だ。ここまで注目されるようになったきっかけについて、氷見氏はこう語っている。「コロナがターニングポイントでした。おうち時間を充実させるために、動画を見たり、ゲームをしたりする人が増えたので。だから先に注目されたのは中古スマホではなく、中古タブレットだったんですよ」 「コロナが落ち着いたいまは、学校の授業で使う中古タブレットを探しに来るお客さんもいらっしゃいます。iPadは変わらず人気なのですが、Androidのタブレットは徐々に減ってきました。もうスマホの性能が、タブレットを凌駕してしまっているところがあるので」 タブレット需要が減ってきたのには、スマホの高性能化が背景にあるようだ。「スマホの画面は、基本的に6インチのものが多くなってきました。それだけあれば動画を見るのには困らないサイズですし、わざわざ10インチのタブレットを持ち歩くより楽ですよね。それでいて多機能なので、『じゃあスマホでいいじゃん』という結論に至る方が増えたのではないかと考えています」 タブレットの強みでもある“画面の大きさ”が、スマホの進化によってそこまでの魅力にはならなくなってきたようだ。また、中古スマホが求められている理由についてこう語った。「コロナがきっかけでUber Eatsが台頭し、配達用のサブ機として中古スマホを買われる方も多いです。あとは、スマホゲームを歩きながらプレイするためだったり、音楽を聞く用として複数台使用したりといったケースもあります。いまは2台目、3台目のスマホを持つ理由が無数にありますからね。私たちも知らないようなサブ機の使い道もあると思いますよ」 「単にスマホを複数台持つだけではなくて、通信回線を2個、3個契約して使っている方もいます。最初はネット関係のお仕事をしている方だからなのかなと思ったんですけど、普通の大学生のお客さんでも、複数のキャリアを使っている方がいますね」 最近は端末のみならず、回線も複数使用するのが当たり前の時代になりつつあるようだ。そんな時代の流れのなかで中古スマホは、価格的にも手に取りやすくちょうどいい存在なのだろう。そして今回訪れた『ゲオモバイルアキバ店』の客層は、約9割が外国人だという。秋葉原はもともと海外からの観光客が多く訪れる街ではあるが、なぜ中古スマホ市場にも影響があるのだろうか。 「極端に外国人のお客さまが増えたなと感じたのは、今年の4月あたりからです。たとえばiPhoneでいうと、そもそも日本の方が定価が安いんですよ。それが中古となるとすごくお買い得ですよね。さらに円安などの影響も重なって、日本でスマホを買うのがお得だと感じている海外の方が増えているのではないでしょうか」 (参考:日本のiPhone販売価格は世界38の国・地域の中で最安https://www.m2ri.jp/release/detail.html?id=598) ・キーワードは「SIMロック廃止」と「0円廃止」 国内のみならず、海外からも注目を集めている“中古スマホ市場”。ユーザーの生活の変化もあるようだが、たびたび見直される携帯販売に関する規制も、注目を集める背景に影響しているようだ。「SIMロックが廃止になったのは大きいですね。いまでも、SIMロックが解除されている端末の方が買取金額が高い傾向にあります」 「2021年の10月からSIMフリーになったことで、端末を購入した会社以外のSIMカードを使うことができるんだ、ということを改めて知った人が増え、格安SIMを利用する方も増えました。格安SIMは維持費が安いですからね。中古スマホと合わせて、安いパッケージでサブ回線として使う方もいらっしゃいます」現在は大手キャリアからも格安プランが登場しており、格安SIMへの抵抗感もほぼなくなりつつあるだろう。 くわえて追い風となったのが、「0円スマホ」や「1円スマホ」の規制だ。携帯の割引上限は、法令の抜け穴を通じて値引きをおこなう通信キャリアと、独禁法における「不当廉売」にあたるとして規制を強化する総務省による“いたちごっこ”が年々続いている。2019年、総務省は「回線契約に伴う利益供与」の上限を2万2000円までと定めたが、その後通信キャリア各社は回線契約の有無を問わない「端末単体購入値引き」を開始、ふたたび大幅な値引きがおこなわれた。 そして2023年12月27日に総務省の電気通信事業法ガイドラインが改正され、値引き上限が端末単体購入も含めて原則4万4000円に制限された。「値引き金額の規制により『0円スマホ』や『1円スマホ』がほぼなくなったのも大きいです。キャリアショップで『0円スマホ』や『1円スマホ』のプランで新品を買い換えていたお客さんが流れてきたのも、中古スマホが注目され始めた理由のように感じます。そういったお客さまは、携帯選びにそこまでこだわりが強いわけではないので、コスパよくいい機種を使えるという需要に、中古スマホがちょうどマッチしたのかもしれませんね」 (参考:電気通信事業法施行規則等の一部改正https://www.soumu.go.jp/main_content/000913308.pdf) 「いま新品の機種はすごく高いですからね。iPhoneにしてもAndroidにしても、5、6年前なら7~8万円のスマホもあったのですが、もういまはどれも10万は超えてしまいます。昨年から今年にかけてはとくに、お客さんから『新品が高い』といった声を聞くようになりました」 ・iPhone8に根強い人気がある理由 中古スマホを求めにやってくるお客さんは、性能よりもとにかく価格の安さを優先しているようだ。「うちのお店でも一応iPhone16の在庫を置いていたんですけど、そこまでの性能はいらないようですね。中古を見にきた時点で購入金額を下げることが、お客さんのなかでは1番なので。そこは外国人のお客さんと大きく違うところですね」 「ただ、性能がいらないと言いつつ気にされる点もあるんですよ。たとえば5Gが使えるかどうかです。あとは、バッテリーの状態を気にされる方も多いですね。iPhoneはバッテリーの状態が記載されているので、中古のなかでもできるだけ寿命の長いものを選んでいきます」いま中古スマホユーザーのあいだでは、“5G”と“バッテリーの状態”が判断基準になっているようだ。 販売側の視点から見て、いまおすすめの中古スマホはiPhone13・14だという。「iPhoneのなかでも、比較的安価で買えるし、高性能なモデルです。価格と性能のバランスが1番いいのが、現状このあたりになってくると思います。あとはSEシリーズも数を揃えて販売していますね。ホームボタンの存在意義というか、『指紋認証がいい』という層は一定数いるので」一見顔認証の方が手軽に思えるが、指紋認証にも需要があるのは驚きだ。さらにSEシリーズは、圧倒的な価格の安さも人気がある理由だろう。『ゲオモバイルアキバ店』でも、SEシリーズは1万円~3万円ほどの価格帯で販売されていた。安価でありながらどれも傷ひとつない綺麗な状態で、まさにサブ機としてはうってつけだ。 「販売価格が低いものでいうと、iPhone8はずっと売れています。状態のいいAランクでも1万2000円程度なので、お子さまに持たせる用や、自分のサブ機、仕事用として購入される方が多いです。傷ついてもいいし、とにかく使えればいいという目的で人気ですね。万が一画面を割ってしまったとしても、心が痛まない価格なので(笑)」たしかに、子どもなどは落として割ってしまう可能性も高い。半分おもちゃのような感覚でも使うことができるのだろう。 「iPhone8はOSのアップデートが終了してしまっているのですが、アプリには対応していますし、必要最低限の機能が使えるというのが大きいですね。iPhone7までいくとLINEが使えなかったりするので、1番安価で手に入れられて、機能面の条件も満たしているのがiPhone8なんだと思います」 中古スマホのなかでも、価格帯によってそれぞれの需要があるようだ。いまは、新しければいいというスマホ選びではなくなってきていることがわかる。「iPhone8でさえいまだに需要があるので、iPhoneは何かのきっかけでガクッと販売価格が下がることもあまりないんですよね……。新しいモデルが発売されたら、旧モデルの値段が下がると思われている方もいるのですが、つまり同じように旧モデルを狙う人が増えるということなんです。だから販売する側としては値段を下げる必要があまりないんですよね(笑)。iPhoneの価格はときが経つとともに、じんわり刻みながら下がっていく、という感じなんです」 「あとAndroidでいうと、Pixelシリーズが人気ですね。以前はGalaxyとXperiaがAndroidの二大巨塔だったのですが、ここ2、3年はPixelシリーズが勢いを伸ばしてきました。若い方だと『デザインがかっこいい』というところから入るのですが、おすすめポイントとしては“世界中どこでも使える”ことが大きいですね。たとえばXperiaやGalaxyって、SIMフリーとはいえいろいろ制約があるんです。でもPixelシリーズはSIMを挿しただけでどこでも気にせず使えるので、非常に便利です。あとは、OSのアップグレードが5年間保証されているのも大きな魅力です。『Pixel 9』『Pixel 8』になると7年間も保証されています。ほかの機種はシステムのアップグレードが途中からできなくなってしまうのに対して、アップグレードが長期間保証されているという点も、人気の理由です」 ・中古スマホならではの注意点とは? ひと通り話を聞いて中古スマホ市場の全体像が見えてきたが、やはり『中古スマホって大丈夫なの?』といった不安を抱えている人は多いのではないだろうか。そこで、氷見氏に改めて中古スマホを購入する際に気をつけるべき点を挙げてもらった。 「1番気をつけるべきは『ネットワーク利用制限』です。これはどこの中古ショップでも確認していると思うのですが、前のオーナーさまがまだキャリアに分割支払いを続けているのかどうかということです。全額支払い済みだと「◯」、まだ分割支払い中なのは「△」と表示されています。「△」の端末を購入して結局支払われず通信制限がかかってしまった(通称:赤ロム)場合、ゲオでは全額返金の保証があります。ただ、データを移行しなければいけなかったり、来店などの手間が出てきてしまいますので、最初から「◯」の端末を選んだ方がいいかもしれませんね」 ネットワーク制限の保証は、中古ショップだと基本的に行っているところがほとんどだという。ほかにも、端末固有の識別番号である「IMEI」から状態を知ることができるので、ネットなどで購入する際は自身でネットワーク制限がどうなっているのか調べることも大切だ。 「あとは外装の傷がないかどうかを、購入時にしっかりと確認することですね。帰宅してから傷に気づいても、保証の対象外になってしまうので。逆に小さな傷程度だったらカバーをつけるから気にしないよ、というのであれば、金額も大きく変わるのでそういった選び方をするのもひとつですね」どちらにせよ、外装については購入前にしっかりと確認をした方が良さそうだ。これは中古ならではの注意点だろう。 盛り上がりを見せている“中古スマホ市場”。中古のなかでも古いものから新しいものまで、それぞれに使い道があることが人気の背景にあるようだ。性能には満足しているなかで新モデルが発売され続けるのであれば、今後中古スマホユーザーはさらに増えていく可能性もある。中古といえど、品質もよく保証も手厚いのであれば、購入のハードルもグッと下がるだろう。もし買い換えを検討しているのであれば、ぜひ選択肢のひとつに中古スマホを入れてみてはどうだろうか。
はるまきもえ