加齢黄斑変性―年を取ったら、黄斑はおかしくなる?【100歳まで見える目】
「あなたは加齢黄斑変性です!」。そう言われると、「もうトシか。じゃあ仕方がないのかな」などと思うかもしれません。しかし、加齢黄斑変性は50歳以上の100人に1人ちょっと(正確には1.3%)しかならない、そんなに多い病気ではありません。 加齢とともに白内障は100%の方がなりますし、緑内障も年齢とともに増えていきます。では、なぜ加齢黄斑変性だけ「加齢」が付いているのでしょうか。その原因は、この病気を診断することの難しさが背景にありました。 変性とは、ただの異常を指す医学用語です。実は加齢黄斑変性の正体は長い間分かっていませんでした。 加齢黄斑変性は、網膜という目の底(眼底)の光を感じるところの中心である黄斑が弱り、新生血管が生じたり、神経組織が痩せたりする病気です。目の表面は診察しやすいですが、目の中を観察することは非常に困難でした。 目の内側を観察できるようになったのは、1850年代にドイツのヘルムホルツ先生が検眼鏡を開発してからです。その頃から検眼鏡をのぞくと、高齢者には黄斑がいろいろと変化を起こしている患者さんたちがある程度の割合で見つかり、加齢黄斑変性と呼びました。英語でも全く同じ表現であり、加齢で黄斑がおかしくなる人がいる、そのような概念とされていました。病変を取り出して顕微鏡で確認して病気の正体を解明していく病理学という分野がありますが、眼は取り出せませんから病気の正体がなかなか分かりませんでした。 加齢黄斑変性に対してやっと病態が解明されてきたのは1990年代に入ってからです。造影検査や断層写真等、たくさんの検査を駆使してやっと分かってきたのです。また、黄斑はサル以上の霊長類にしか存在しないため、研究が難しかったことも関係しています。現在は遺伝的な体質、喫煙などの環境、そして加齢が関与する複合的な病気であることが分かっています。 「加齢」ももちろん関与しますが、加齢黄斑変性は年齢が上がって皆がなる病気ではなく、独特の病気であるという認識を持っていただければと思います。