「世界が自然派ワインに『やわらかさ』を求めている」ドメーヌ・タカヒコに聞いた、余市ワインが世界から注目される理由とは?
いま北海道、それも余市の自然派ワインが熱い......。都内のワインショップでは余市のワインの抽選販売の告知が出るや人が殺到。飲食店では品薄であるにも関わらず、空のボトルを誇らしく店頭に飾り、それを取り扱える幸福を道行く人にアピールしている。 【写真】絶対味わうべき余市ワインの生産者3選と、北海道の自然派ワインを楽しめる札幌の名店へ! この勢いを牽引するのが「ドメーヌ・タカヒコ」のフラッグシップたる「ナナツモリ ピノ・ノワール」だ。なかなか出合えないこのワインの2020年ヴィンテージを、編集カナイは自然派ワインを取り扱うワインスタンド・TEOの周年記念パーティで提供されたスペシャルボトルとして初めて味わうことが出来た。香りには喜ばしいイチゴのような華やかさと、どこかに大地の息吹を感じる土のニュアンスがある。口に含んだ瞬間、梅やチェリーのような香りとともに優しい酸味が口を少し引き締め、シイタケのような滋味深さと、身体の奥まで沁み入るカツオ節のような味わい、長く目を瞑っていたくなる紅茶のような余韻......。この深く、広がりがある味わいが生まれる現場をどうしても体感したくなり、余市へと向かうことを決めた。
「北」「雨」そして「風」が造る美しい個性。
「私がワインを飲み始めた時期は、いわゆるパーカー・ポイント全盛時代。世界中のワイン生産者が、評論家ロバート・パーカーが高得点をつけた"完熟したワイン"を目指していました。個人的に、若い頃はジンファンデルやマディランなどフルボディのワインも大好きでしたが、普段食べつけないハイカロリーな食事やチーズと合わせて飲むような重いワインは、日本人にとって『背伸び』なんじゃないか、とも思っていました」 そう語るのは、ドメーヌ・タカヒコを手がける曽我貴彦さん。長野県の小布施ワイナリーの次男として生まれ、大学で醸造学を学んだ後、微生物学者として研究室に勤務。しかしワインへの情熱から転職し、栃木県にあるココ・ファーム・ワイナリーのブドウ栽培責任者として10年間働くことに。同時に世界と日本各地のワイン生産地を巡り、ブドウ栽培やワインの研鑽を重ねた。その最中、"ナチュールワインの神様"とも称されるピエール・オヴェルノワのワインに衝撃を受けたのだという。 「パーカーが広めた重たいワインブームの反動か、2000年代にナチュールワインが注目され始めました。その中でも、フランス・ジュラでプールサールという品種から造られたオヴェルノワのワインには、出汁のような味わいと、深く長い余韻があった。同時期にロワール、オーストリア、イタリア北部でもおもしろい自然派の生産者が現れています。自分が好きだと思った生産者は、いずれも"北"、つまり冷涼産地の造り手だと思ったのです」