「ヒトのことば」と「動物のことば」はどう違うのか?【今井むつみ×鈴木俊貴対談】
小鳥のシジュウカラが文法を持つことを突き止め、「動物言語学」という新たな学問分野を立ち上げた鈴木俊貴氏。一方、「子どもはどのように言語を習得するか?」という問いに取り組み続ける言語心理学者の今井むつみ氏も、「新書大賞2024」に輝いたベストセラー『言語の本質』にて、人間のことばと動物のことばの違いを論じている。 【写真】記事内で登場した動物たち 違った角度で言語にアプローチする泰山北斗が待望のマッチアップ。白熱した議論の一部をお届けする! ■シジュウカラも言葉を学ぶ? 鈴木俊貴(以下鈴木) 今井先生のご著書や論文を読んでいると思うんですが、ヒトの子どもの言葉の発達って、シジュウカラの幼鳥が「言葉」を学ぶ様子に似ているんですよ。 今井むつみ(以下今井) 本当ですか? 鈴木 例えば、幼い時は「マンマ」「ワンワン」みたいに単語だけしか話せませんが、2歳くらいになるとふたつの単語を組み合わせて話すようになりますよね。 今井 「二語文」ですね。 鈴木 シジュウカラも同じなんです。 僕が発見したようにシジュウカラの言葉にはちゃんと文法があり、その文法に沿って単語を組み合わせることができるんですが、生まれた直後はできません。天敵のタカやヘビを意味する「ヒーヒーヒー」とか「ジャージャー」みたいな単語しか使えないんですね。でも、生後1ヵ月半くらいになると単語同士を組み合わせた二語文を使うようになります。 今井 1ヵ月半で発達が完成して大人のシジュウカラと同じように鳴けるようになる? 鈴木 いや、それはわかりません。 例えば大人のシジュウカラは別の鳥のエサを奪うために「騙(だま)し」をすることがあるんですね。目の前にタカがいないのに「ヒーヒーヒー」と鳴いて、びっくりした別の鳥がこぼしたエサを食べたりするんです。でも、幼いシジュウカラがそういう行動をとれるかどうかはわかっていません。 今井 そうなんですね。 人間の言葉ってとても複雑ですから、普通に話せるようになるまで3、4年はかかります。その間の発達ってものすごく急速で、とくに1歳に満たない乳児さんたちは1ヵ月単位でどんどん変わっていくんですよ。 鈴木 乳児「さん」なんですね(笑)。ただ、個人差もありますよね? 今井 あるんですけど、面白いのは言葉を身につけるスピードには多少の個人差があっても、身につける「順番」は誰にも共通しているところ。まず単語ひとつだけの「一語文」を話し始めて、次に二語文を身につけるというふうに人間の子どもが言葉を学ぶ順番は決まっているんですね。 鈴木 なるほど。その順番が、シジュウカラとヒトの子どもとで共通していたら面白いですね。言語を使うための認知能力の発達に、種を超えた普遍的な法則があったら......。