田中亮明ボクシング五輪フライ級61年ぶり銅メダル獲得の裏に元3階級制覇王者の弟からの千切れた3枚のメモ
五輪直前に参加したロシアの「コンスタンチン・コロトロフ記念国際トーナメント」で敗れた試合も1ラウンド目はテクニック勝負し、全力でつっかかっていったのは、3ラウンドに入ってからだった。父が指摘したのも、その点で「自分のボクシングを最初から最後まで貫け」と説かれた。東京五輪は、抽選の結果「死のトーナメントの組」に割り当てられ、1回戦でリオ五輪銀メダリスト、2回戦でリオ五輪銅メダリストと対戦したが、いずれも激闘の上、撃破した。それも父の助言を忠実に守り、自分のボクシングを貫いた結果だった。 「弟も、この前(井岡選手に)負けたけど、スピード、パワーを全面に出したボクシングはカッコよかったし、また次に向けて頑張っている。そういう姿勢を見ると凄いなと思うし、僕も頑張ろうと思えたりする。刺激をもらいながらお互いに切磋琢磨はしている」 去年の大晦日に弟は、4階級制覇王者の井岡一翔に挑みKO負けを喫した。だが、挫折から再び立ち上がろうとしている姿に感動を覚え、またモチベーションに火がついた。 「兄弟としての絆も深まった」 家族だけなく、多くの人の協力を経て無観客の両国のリングに立った田中の五輪への挑戦は、それだけで意義のあるものだった。だから田中は、すべてを終えたときに感謝の気持ちを言葉にしたのである。 現在27歳。中京大の教師である田中の今後には、いくつもの選択肢がある。3年後のパリ五輪を目指すのか、それとも弟と同じくプロに転向するのか。ちなみに高校時代に同年代の“ライバル”として対戦もし「彼が同じ世代にいたので彼に追いつくために練習して強くなれた。感謝している」と語った相手が、あのWBA世界バンタム級スーパー、IBF世界同級王者の“モンスター”井上尚弥(28、大橋ジム)である。 五輪前には「弟も井上尚弥のような存在になりたいと思っている。いろんなプロに夢を与えている存在」とリスペクトした上で、条件次第で「戦ってみたいし実現したら全力で勝ちにいきたい」とも口にしていた。これはエキシビションマッチのようなものを想定しての「戦いたい」ではあったが、ボクシング界の歴史の扉を開けたメダリストの“未来”が楽しくなってきた。