なぜ井岡一翔は「格の違いを見せる」の有言実行を果たし田中恒成に8回TKO勝利できたのか…「違った拳の重み」
プロボクシングのWBO世界スーパーフライ級タイトルマッチが31日、東京・大田区総合体育館で行われ王者の井岡一翔(31、Ambition)が前WBO世界フライ級王者で指名挑戦者の田中恒成(25、畑中)を8回1分35秒TKOで破り2度目の防衛に成功した。井岡は戦前の超過激発言通りに「格の違い」を見せつけて攻守に圧倒。左フックで計3度のダウンを奪って“有言実行”を果たした。次に狙うは統一王者。「残りのボクシング人生も少ない」という井岡は10度目となる2021年大晦日のリング登場を約束した。
「余裕を持って戦えた」
「来いよ」 井岡は右手でそうジェスチャーした。 すでに2度ダウンしている田中は「倒されて引かない気持ちが先走った」という。 誘われた挑戦者が、右を打ち込んでくると、井岡は、それに右を合わせておいてから間髪を入れずに電撃の左フックを炸裂させた。最高級のテクニックを見せつけてきた“井岡劇場”のエンディングにふさわしい一撃を食らった田中が朦朧として足をよろけさせると染谷レフェリーが抱えるようにして試合をストップした。立ったままTKOの宣告を受けたのが元3階級制覇王者のせめてもの意地だったのかもしれない。 井岡は、リングをグルっと走ってコーナーに駆け上がると「シャッー」と雄叫びを一発。そしてクネクネと勝利のダンスを披露した。 「狙ったわけじゃない。タイミングのパンチ。僕からしたらサプライズな結果じゃない。格の違いを見せると言ってきて男として口だけで終わるわけにはいかなかった。有言実行。ボクシングの幅だったり展開に余裕を持って戦えた」 田中は何もできなかった。いや、井岡が何もさせなかった。 「格の違いを見せる」 「レベルの違いを見せ、誰がチャンプかを証明する」 井岡の“男の誓い”に嘘はなかった。 2度あったピンチをピンチに見せなかった。 開始直後のファーストブローでスピードに乗った右ストレートを浴びた。 「あれはミス。(右ストレートに対して)左フックを狙ったらダメなんですが、右が動いた瞬間に勘違いした。右ストレートがいいのはわかっていたので駆け引きを間違った」 井岡はひるんだ。だが、田中は電光石火の勝負にいかなかった。 3ラウンドにも2度目のピンチに襲われる。終了間際に右ストレートを浴びた。 「思ったよりもパンチが伸びてきた。予想外。目が見えづらくなった」 みるみる左目が腫れ、田中の姿がだぶって見える。だが、井岡は、「気持ちが折れたわけではない。これでも戦うしかない状況」と焦らなかった。次のラウンドではダッキングで懐に入って右フックを当て左でプレッシャーをかけて視力の回復を待つ。なんともしたたかである。