なぜ女子レスリング62キロ級で川井友香子は悲願の金メダルを獲得し姉の梨紗子へ“黄金バトン”をつなぐことができたのか?
東京五輪の女子レスリング62キロ級の決勝が4日、千葉の幕張メッセで行われ、川井友香子(23、ジャパンビバレッジ)が、アイスルー・ティニベコワ(28、キルギス)を破って金メダルを獲得した。姉の川井梨紗子(26、同)も57キロ級での決勝進出を決めており、女子レスリング史上初の「姉妹で金」へ王手をかけることになった。
勝負を決めた片足タックル
日本代表になっても、川井友香子には、リオ五輪63キロ級金メダリスト川井梨紗子の妹として、どこか頼りなげなイメージがつきまとった。だが、東京五輪での彼女は、一度として不安そうに眉を下げた顔を見せることなく初めて世界の頂点に立った。 「夢みたい。本当に嬉しい。最高の一日です」 涙をふいて、晴れやかな笑顔で語ったあと、すぐ「明日の梨紗子に」と自分の勝利が未来へ繋がるものになることを願った。 2019年世界選手権覇者でもあるティニベコワとの決勝は、最後の瞬間まで思わず息を止めてしまうような激しい競り合いとなった。モニター越しに試合を見ていた、ソウル五輪金メダリストの小林孝至氏も「思わず画面にかぶりついて見てしまった」という熱戦。 「実力は互角。勝利の女神が微笑んだほうが勝った」と思わず非科学的なたとえで説明不能と言いたくなるほどだった。 それでも、勝負の行方を決めたポイントは、第1ピリオド、消極性から1点を失った直後に、川井が片足タックルでティニベコワから2得点したことだろう。 「それまで押し合いが続いていましたが、川井が少し横へ振って相手がわずかに前のめりになりました。その瞬間を逃さずタックルに入った。このあと、点を取り返すためティニベコワは足をとろうと繰り返し、攻めてきました。ですが、足をとられてからも粘って点をやらなかった。この部分は完璧でした。第2ピリオドでは、その相手の動きを利用して2得点することもできました。全体的に守るか攻めるかという判断をうまく使い分けていたと思います」と小林氏は分析する。 4-1と川井がリードして試合が終盤にさしかかったとき、ティニベコワはタックルから2得点を上げて4-3の1点差とした。このとき、残り時間はわずか4秒。だが、一度に高得点を得られる投げ技や連続技で点数を重ねて勝ってきたティニベコワはあきらめない。 しかも、世界選手権で優勝した2019年の対戦では、決勝でこそなかったが、川井に逆転フォール勝ちしている。そういう勝負の4秒間を川井は守り切った。 その理由を小林氏は、こう見ている。 「第1ピリオドの2得点のあと、ずっと攻められる一方でしたが、試合全体を通して、組み合っても後ろへ下がらなかったことが一番、大きな勝因だと思います。下半身をしっかり鍛えていたからこそできたことですね」