なぜ女子レスリングのリオ五輪金メダリスト土性沙羅はメダルに手が届かなかったのか…敗因に故障と新型コロナ禍の影響
女子レスリング68kg級の3位決定戦が3日、千葉の幕張メッセで行われ、リオ五輪金メダリストの土性沙羅(26、東新住建)がアラ・チェルカソワ(32、ウクライナ)にフォール負けし2大会連続のメダル獲得はならなかった。
克服できなかった怪我の影響
第1ピリオドの終盤に、ウクライナのチェルカソワが土性沙羅の頭と脚を同時に触った。それが見えた次の瞬間には、試合が終わっていた。2分33秒、0-2でフォール負けして5位が確定し、土性の東京五輪は終わった。 「6分間、最後まで闘いきれなかったことはすごく悔しい。試合内容もよくなかったけれど、本当にここまで、よくやってこられたなと思います。周りの支えてくださった方に本当に心から感謝します」 強くて当たり前、勝って当たり前のイメージが強い日本の女子レスラーだが、「よくやってこられた」と自分で言いたくなるくらい、体は限界を訴えていた。 土性は金メダルを獲得したタミラマリアナ・ストックメンサ(米国)に1回戦で敗れ、そして敗者復活戦を勝ち上がったが、3位決定戦で力及ばなかった。 ソウル五輪フリースタイル48kg級金メダリストの小林孝至氏は、土性の敗戦理由にケガの影響があったと見ている。そしてフォールへ至った体勢の崩れは「頭と脚が45度になったから」だと指摘した。 「チェルカソワ選手に断続的に左手首を取られた。ツーオンワンという片腕を両手で持ち手首を決めるテクニックですが、それによって攻めることができていませんでした。第1ピリオドの終盤で、ようやく逆に相手の左手首を取ってツーオンワンの形にしました。チェルカソワ選手はそこで、少しだけ土性さんを左へ揺さぶります。たまらず土性さんの右足が前へ出たとき、頭と脚の距離が近づいて45度の角度になりました。人間の体は、45度になったとき、驚くほど簡単に転んでしまう。その瞬間に、がぶりと隅落としを合わせたような技で体のコントロールを奪われたのです」 以前の彼女なら、揺さぶられて足が前へ出てしまうのではなく、堪えられただろうが、いったん大ケガをした体では、思うようにいかなかった。 「自分自身にも経験がありますが、大ケガをすると、たとえ手術が成功してリハビリが順調だったとしても、絶対に以前と同じようには動かせません。人間はもともと、体を守るために出せる力の100%は出さないように、リミッターが備わっています。それでも、トレーニングを積むことで一流選手は100%に近い力を出せるようにするのですが、いったん大ケガをすると、そのリミッターの上限が下がってしまうんです。これは、精神的な原因だけではなく、人間の体が持つ機能なので、避けようがないと私は考えています。土性さんもおそらく、左肩と左膝について、同じような状況になっていたと思われます」と小林氏。