自己責任論が蔓延する日本 「私たち」を主語に“共感力”で助け合う世界を 霊長類学者・山極壽一さん【Style2030】
■「みんなが違うからこそ面白い」 理想は都市と地方を往来する「多地域居住」 ――大学の授業で学生に意見を求めても、意見を言いません。ほかの人と違いが出てしまうのを嫌がっている節があるんですが。 山極壽一氏: それぞれが違っているってことを尊重し合いながら、違う意見を出し合うのが本来の話し合いであって、自分が気がつかなかった新しい解決策が出てきたり、発想ができたり、新しい未来が描けたりするわけでしょ。 人間がそれぞれ違っているということが、人間社会が発展してきた大きな力なんです。今あらゆるものがAIに依存するようになって、均質な世界になっているわけです。みんなが同じ方向に誘導されていって、同じような結果に満足するようになってしまう。そうすると、それはすごく弱い体制なんですね。 みんなが違うのが当たり前で、みんなが違うからこそ面白いことができるっていうふうにならないと本来いけないんじゃないかと思う。 ゴリラとともに暮らすことで自然の中で生きることの大切さを身をもって感じてきた山極氏の、現代社会に対しての提言とは。 ――今の日本を考えると東京など都市の価値観や豊かさが頂点にあって、それを地方に真似させていくといいますか…。 山極壽一氏: 都市が駄目なんですよ。みんな箱物じゃないですか。長方形の箱がくっついたようなものが家じゃないですか。そこにみんないるから、同じような暮らしのデザインになっちゃうわけです。 地域に行けば、箱物じゃないものがいっぱいあるわけですよ、人間の暮らしの中にね。そういう中に接しているといろんなものに対処できるようになる。世界中の人口の半分以上が都市に暮らしています。地方はどんどん貧しくなっていく。それは都市の価値がどんどん地方に委譲されて、都市の価値で地域が測られる。しかも都市の下請けを地方に引き受けさせるようになっているわけです。逆に、地域の価値を都市に持ってくるようにしないといけない。 そのためには、都市の人が自分の住んでいるところだけじゃなくて、地域にもう1か所、2か所、居住先を作る。多地域居住というのをこれから推奨すべきだと思っているんだよね。地域の人たちが異質の人を受け入れながら、その地域の発展をデザインしていくことができれば。特に若い人たちにどんどん行ってほしいと思うわけ。 ――都市に住んでいる若者は地方で得たものを都市に持ち帰って、都市を変えていけるということになるわけですよね。 山極壽一氏: 都市にいたら何でもかんでも安定志向になるので、変わらないものをどんどん作っていくわけです。しかもルールに従うもの、操作できるものを作っていこうとする。でも、自然というのはルールに従わない。予想外のことが起こるというのが本来の自然なのね。 都市にいても、自然の猛威というものがいつか来るということを予想しながら生きていけるっていう、まさにそれが生きる力になるわけでね。そういう能力を育てないといけないと思う。それは子どもたちだけじゃなくて、我々大人も持たなくちゃいけないんだけど。 人間の生活には効率化できるものと効率化できないものがある。何でも測って時間を単位に効率化しようとしてしまったことに、大きな過ちがあるわけです。効率化できない、しかも対面しなければできないものをもっと増やしていかないと、生きる力はわいてこない。 生きる力は1人ではできない。仲間と一緒に何かに向かうことによってできるものだから。それをずっと長い進化の過程で人間は作ってきた。それを子どもの頃から体験させなければいけないと僕は思います。 (BS-TBS「Style2030賢者が映す未来」2024年10月20日放送より)
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