野心的な排出削減目標を掲げた国は世界の再生可能エネルギー市場で主導的地位を確保できる(サイモン・スティル氏/国連気候変動枠組み条約事務局長)
これまでに国連が提供してきた国際協調のプロセスがなければ人類は(産業革命前と比べて今世紀末の気温上昇幅)5度という危機的な温暖化への道を歩んでいたことでしょう。これは日本を含む人類の生存基盤そのものを脅かす水準です。
現状でも私たちは(産業革命前と比べて今世紀末の気温上昇幅)約3度の温暖化という深刻な軌道にあります。日本を含むすべての国の経済と国民の暮らしに甚大な影響を及ぼすことは避けられません。
気候変動対策を次の段階へと進めることは日本自身の国益そのものです。拡大するクリーンエネルギー市場の恩恵を日本の産業界と国民が最大限に享受できるよう今こそ行動を起こすべき時です。
(注1)NDC:「Nationally Determined Contribution」(国が決定する貢献)の略。パリ協定では全ての参加国は5年ごとに提出、更新する義務がある。日本政府は2030年度目標として13年度比で温室効果ガスを46%削減する、とのNDCを21年10月に決定し、UNFCCC事務局に提出している。国連環境計画(UNEP)は10月に各国がNDCの目標を達成しても今世紀末には産業革命前比で2.6~2.8度の上昇が見込まれるとの報告書を公表した。日本政府は12月24日に次期NDCを「2035年度に13年度比60%減、40年度に同73%減」とする方針を決めた。
(注2)日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP):気候変動への取り組みを推進し、持続可能な脱炭素社会の実現を目指して、企業、自治体、教育機関、医療機関などが連携して活動する経済団体。2009年に設立された。パリ協定への賛同や「2050年までのネットゼロ宣言」への取り組み、企業間で情報共有や協働の場を提供する「脱炭素コンソーシアム」の運営など多彩な活動を行っている。
(注3)11月11日から24日までアゼルバイジャン・バクーで開かれたCOP29では、発展途上国の地球温暖化対策資金(気候資金)として先進国が2035年までに官民合わせて少なくとも年3000億ドルを支援することで合意。さらに合意文書には「先進国と途上国合わせた世界全体で35年までに官民合わせて少なくとも年1兆3000億ドルに拡大するための協力を求める」との文言が盛り込まれた。 内城喜貴/科学ジャーナリスト
プロフィール
サイモン・スティル 国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)事務局長 グレナダの政治家。2022年8月からUNFCCC事務局長。英国のウエストミンスター大学で経営学修士号取得。英国企業、米国カリフォルニア州のシリコンバレーを拠点とするベンチャー企業などに勤務の後、グレナダに戻り、2013年に上院議員。同年から22年6月までグレナダ政府の大臣を歴任し、この間5年間気候レジリエンス・環境大臣を務める。