野心的な排出削減目標を掲げた国は世界の再生可能エネルギー市場で主導的地位を確保できる(サイモン・スティル氏/国連気候変動枠組み条約事務局長)
アジア地域でも大きな市場の変化が起きています。中国は「クリーンテクノロジー」の分野に巨額の投資をしています。直近ではインドネシアが石炭火力発電の段階的廃止を表明しまし た。さらにパキスタンやインドでは太陽光発電市場が劇的な成長を遂げています。アジアの エネルギー転換は加速の一途で、その市場規模と成長速度は日々拡大しています。
日本は意欲的NDCで投資呼び込める
このような状況の中で日本は大きな強みを持っています。世界に誇る技術革新力、そして高度な知識と技能を備えた人材という特長を生かすことにより、世界のこの成長市場で主導的な地位を確立できる立場にあります。
クリーンエネルギー革命という世界的な潮流がもたらす先端技術や高付加価値分野での機会を確実に捉えることは、日本の生産性向上や経済成長、そして生活水準の維持向上にとって極めて重要です。特に日本のような高齢化が進む先進国では、生産性を大きく高めなければ経済成長が鈍化してしまう可能性があります。
日本には海外からの投資を支えることができる充実した制度や法的な基盤があります。政府が明確な政策方針を示し、意欲的なNDCを打ち出すことにより、さらに投資を呼び込むことができるでしょう。
意欲的な削減目標の下での気候変動対策計画がなければ、日本企業は2兆ドル規模のクリーンエネルギー市場での成長の機会を逃しかねません。この成長市場の恩恵を獲得するための国際競争は一層激しさを増しています。
クリーンエネルギー市場での主導権を握るための競争が激化する中で、G20のどの国もこれまで通りの姿勢をとれば確実に国際競争力を低下させることになるでしょう。その結果、企業の経営悪化や生活水準の低下を招くことになります。このことは既に日本の主要企業の間で広く認識され、理解されています。 最も警戒すべきは「気候変動対策の強化が経済力を損なう」という誤った考え方です。このような認識はむしろ経済の停滞を招く結果となるでしょう。