日本軍「幻の名機」を開発した「元三菱重工技師」の”すごい手記”、プロペラ機の「世界最高傑作」ができるまでに「知られざる全内幕」…!
2013年に大ヒットした映画「風立ちぬ」の主人公のモデルとなった堀越二郎は、零戦設計者としてあまりにも著名だが、堀越が率いた三菱の技術部第二設計課は一連の名機の設計拠点だった。老舗軍事雑誌「丸」2月号で大特集された艦上戦闘機「烈風」もその一つだ。プロペラ機として世界最高傑作と言われた「烈風」。零戦をしのぐ空戦性能を示したが、戦争の影響などで機体の生産が遅れ、太平洋戦争終結までに間に合わなかった。まさに「幻の名機」である。胴体設計に携わった元三菱重工名古屋航空機製作所技術部技師、楢原敏彦が同誌に寄せた手記から当時の内幕を一部抜粋・再構成してお届けする。 【写真】軍事誌発「伝説の航空機本」、そのすごい中身を公開する…!
改造設計、設計変更――超多忙を極めた設計室
「烈風」の設計陣は、堀越さんを中心としてほとんどが零戦の設計という試練を乗り越えた人たちからなっていて、当時、この設計室では「烈風」の試作設計だけでなく、零戦のいろいろな改造設計や、「雷電」の設計変更などにも各係が忙殺され、これに全力をあげて奮闘していたというのが実情だった。 私が担当した胴体についていえば、無線アンテナの特殊飛行状態での振動に伴う折損問題だった。これは机上で理論的に解決できるものではない。堀越さんの指導のもと、ポールのいろいろな取り付け方法を試作して、飛行実験を重ね、ついに解決した思い出がある。
神経を研ぎ澄ませた「強度の過不足」
高性能が期待される戦闘機では、強度の過不足は重要な課題だった。つねに必要最小限に設計しなければ良い設計とはいえず、わずかな重量増加でもただちに、その機の性能低下の原因となってしまう。 胴体の形状についてみると、「烈風」は実に美しいラインをもっている。私は“芸術を意識しない芸術”だ、とさえ思っている。これも零戦で経験しさらに一段と洗練された“スマートさ”をそこに感じさせる。 この形は、堀越さんがフリーハンドで描かれたレイアウトのラインを、私が拡大して、いくども書き直しをして、そのあとの承認を得て、ついに完成したのである。
すばらしいラインをみせる「風防のカーブ」
風防のカーブも、すばらしいラインを見せている。とくに印象的なのは、胴体の最後端が、零戦と同じく“点”で終わっていることで、そこには、尾灯がこぢんまりとおさまっていて、まさに「烈風」の名にふさわしい高速形を示している。 このような優れた形は、単にリクツで割り出されるものではなく、堀越さんの非凡な設計力より出たものだと信じている。 こうして誕生した「烈風」も、残念ながら実戦には間に合わなかったが、プロペラ機としては、おそらく世界最高の傑作機ではなかろうか。
潮書房光人新社