似顔絵描き、入院患者を笑顔に あるイラストレーターの奮闘
全国の病院を回り、病と闘う患者や医療従事者を笑顔にする男性がいる。村岡ケンイチさん(38)。職業は、イラストレーターだ。患者の似顔絵を描き、場の空気を和ます「似顔絵セラピー」を始めて14年。なぜ医療現場で似顔絵を描くことになったのか。村岡さんの足跡を追った。(取材・文:佐藤大)
「喜んでもらえるなら、やってみたい」 14年で3000人超
村岡さんは普段、企業広告や雑誌のイラストなどを手掛けている。一方、もっとも得意とするのが似顔絵で、2007年、09年、10年(2回)と4度も似顔絵の国際大会で優勝の栄冠に輝いている。 その腕を買われて、病院関係者から「入院患者を元気づける似顔絵を描いてみないか?」と誘われ、2006年に始めたのが似顔絵セラピーだった。 「似顔絵で患者さんに喜んでもらえる、心のケアになるという事は新しい試みでした。それで喜んでもらえるんでしたら、やってみたい」 当時を振り返り、村岡さんは語った。 以来、村岡さんは14年間に渡り、全国の病院や老人ホームなどを積極的に回り、そこにいる人たちの似顔絵を描くことで病と闘う患者や医療従事者に活力と笑顔をもたらしてきた。報酬は、病院・施設側から出る1日5万円ほどの手当て。これまで描いた似顔絵の数は、3000 以上にも及ぶ。
「似顔絵セラピー」って?
ところで、「似顔絵セラピー」とはどのようなものなのだろう。 村岡さんのサイトには以下のような文言が並ぶ “似顔絵の中に趣味を入れる事により、周りとのコミュニケーションのきっかけを作る。 自分の元気な頃の似顔絵を見て病気と戦うモチベーションを高める。 自然な形であたたかい笑いの空間を作り出し、皆で共有できる。 無機質な病院の壁に似顔絵を飾る事によりあたたかい空間を提供できる” 複数の医師らによると、似顔絵セラピーによって、被写体となる患者らの病状が好転するなどの医学的なエビデンス(根拠)はまだない。 が、似顔絵を描いてもらうことによって患者らが笑顔になったり、心が癒されたりといった効果はあり、その意味で「似顔絵セラピー」という言葉が使われているのだという。