ハビタットスタイル提唱者・河野忠賢さんによる多肉植物の自生地の話。貴重な写真も公開【趣味の園芸8月号こぼれ話・後編】
河:はい、懐かしい写真ですが、これはアフリカ大陸北西部、モロッコの西の大西洋上に浮かぶカナリア諸島を訪れた時のものです。カナリア諸島はいくつかの島が集まっていて、島ごとに違った植物が見られます。私が訪れたのは、そのなかで最大のテネリフェ島です。アエオニウムの自生地としてもよく知られますが、1年を通じて気候がとても穏やかなので、他にもいろいろな多肉植物が自生しています。私の後ろに広がる巨大な群生植物はユーフォルビア・カナリエンシスです。高さ3m以上で、無数に分岐していているため株幅は6mほどもあったでしょう。これが特別ではなく、こうした巨大な群生株がそこかしこに無数にあって、奇観を成しています。 編:おお、迫力満点といいますか、異様といいますか、ともかく驚くべき大きさですね。
河:圧倒されますね。同じ場所に、この写真の多肉植物もありました。これ、変わっているでしょう? 編:何ですか、これは。まるで動物の骨が地面に突き刺さっているように見えますが。真っ白ということは、葉緑素がないのでしょうか。 河:セロペギア・フスカといって、ガガイモの仲間です。白骨のように見えますが、白い粉というかロウ状の物質をまとっていて、その下にはもちろん葉緑素があって光合成をしています。自生地ならではの姿です。日本でも古くから知られた普及種ですが、 決してこんな色にはなりません。もっと緑色から黒っぽい色です。なぜ自生地でここまで美しい白色になるのか、自然の不思議ですね。自然界にはまだまだそうした不思議なことがたくさんあります。気候なのか、土壌なのか、何が違うのでしょうね。ハビタットスタイルを通じて、もっと理解を深めていきたいものです。 編:なるほど、自生地を知ることがなぜ大切なのか、わかった気がします。前編・後編にわたってお話しいただいた内容、「こぼれ話」というには充実しすぎていました。河野さんにはまだまだ引き出しがたくさんありそうなので、別の機会にまたぜひよろしくお願いいたします。ありがとうございました。 河野忠賢(こうの・ただよし) 多肉植物研究家。1991年生まれ。幼少より植物に親しみ、特に多肉植物に熱中。高校時代から世界中の愛好家と親交を結び、知見を広めている。NHK BS「滝藤賢一が行く! 南アフリカ珍奇植物紀行」(2023年12月放送)では監修を担当。著書、翻訳・監修書に『珍奇植物 ハビタットスタイル』(日本文芸社)、『フィールドワークで知るナマクアランドの多肉植物』(グラフィック社)など。Instagramでも情報を発信中(@the_ succulentist_official)。 ●ウェブだけで読める! 趣味の園芸テキストこぼれ話 『趣味の園芸』編集部によるテキストこぼれ話。最新号の特集や記事に関連して、誌面で紹介しきれなかった情報をウェブ限定でお届けします。