ハビタットスタイル提唱者・河野忠賢さんによる多肉植物の自生地の話。貴重な写真も公開【趣味の園芸8月号こぼれ話・後編】
河:そのとおりです。この写真の左はキク科のオトンナ・アルブスキュラ。見事に枝分かれした大きな株が砂丘に点在していました。風が強くて、サラサラの細かい砂が顔にヒシヒシと当たるような場所です。奥に見えているのがまさにオレンジ河ですね。この河床からは、時に霧が立ち込めます。 右の写真は、アロエ・ラモシシマです。アロエ・ディコトマの一種とも言われますが、ディコトマに比べて株元からの枝分かれが多く、一目で違いが分かります。高さは2mほどですが、無数に分枝して巨大な株立ちを形成し、なかには幅4mはあろうかという巨大な株もありました。それでも枝の半分ほどは枯れていて、過酷で乾燥した場所であることが見て取れました。訪れた時には、ちょうど黄色い花が咲いていました。 編:写真を拝見していても、過酷な環境であることは十分伝わります。
ナマクアランド南部、その他の地域
河:場所は変わって次の写真はナマクアランドの南部、ケープタウン周辺の山を登ってみつけたブルンスビギア・オリエンタリスです。この辺りは北部に比べて冬場の降雨が多くて植生密度も高く、北部とは違った植物が見られます。ブルンスビギアはヒガンバナの仲間で、球根種です。写真の個体は栽培下ではまず見られないほど立派に育ったもので、何枚もの葉を重ねて、葉渡り50cm以上もある見事なものでした。地下に巨大な球根をもち、山火事をなんども生き延びます。 編:肉厚な葉が地面に這いつくばるように展開する様子が独特です。さて、ここまでは全部ナマクアランドの植物ですね。「多肉植物の聖地」といわれるだけあって多種多様な植物があるようですが、他の地域にも多肉植物は分布しているんですよね。
河:南アフリカはとても広く、ナマクランドの他にも興味深い地域がいくつもあります。東ケープ州もまた数多くの有名な多肉植物が見られる地域です。左の写真は有名なエンセファラルトス・ホリダス、CITES(ワシントン条約)で最も厳しい取引規制がかかる附属書Iに掲げられた絶滅危惧種の一つです。非常に希少なため、園芸の世界では場合により数十万円の高値で取り引きされています。世界的に人気のある種なので、栽培下で繁殖されたものを見かけることは難しくないのですが、自生地については滅多に言及されません。それだけに現地でその姿を見たときの感動はひとしおでした。この山には他にもユーフォルビア・ポリゴナ(右の写真)や、パキポディウム・ビスピノーサム、クラッスラ神刀など、たくさんの植物が見られました。 編:ひと口に多肉植物といいますが、南アフリカだけでも本当に多種多様ですね。こうした自生地に直接赴くことはかなりハードルが高いですが、写真や文献などの情報をもとに、ハビタットスタイルで鉢植えにすれば、確かに自生地に思いを馳せる助けになりそうです。 河:ハビタットスタイルは単なる自生地の再現、答え合わせではなく、自分自身で想像を膨らませて、あり得たかもしれない景色をステージングする(仕立てる)ことも大きな楽しみの一つです。世界各地の自生地から学ぶことは多く、尽きることのないイメージの宝庫といえます。 編:さて、最後に南アフリカ以外の場所の写真も見せてくださるとお聞きしましたが。