「103万円の壁」より注意すべき壁…働き損にならない年収はいくら?
壁には「税法上」「社会保険上」の2種類ある
パートやアルバイトで働く人ならば、一度は「年収の壁」という言葉を耳にしたことがあるでしょう。現在、年収「103万円の壁」を、最低賃金の上昇率(1.73倍)に合わせ「178万円の壁」に引き上げる議論が進められており、マスコミやSNSなどで「年収の壁」がよく話題に取り上げられるようになっています。今回は、「年収の壁」とは何かについて解説します。「年収の壁」を超えて働くメリットも紹介しますので、今後の働き方の参考にしてください。 労働者は、年収が一定の金額を超えると、税金や社会保険料の負担がアップします。「年収の壁」とは、アップするボーダーラインを指します。 たとえば、会社員として働く夫または妻(以下、扶養者)がパートで働く妻または夫(以下、被扶養者)を扶養している場合、被扶養者は税金や社会保険料を負担する必要がありません。 しかし、被扶養者の収入が「年収の壁」を超えた場合には、扶養から外れて税金や社会保険料を支払う必要があります。 「年収の壁」には、大きく分けて「税法上の壁」と「社会保険上の壁」の2種類があります。「税法上の壁」は、「超えると税金が増える壁」です。被扶養者の税金が増える場合と、扶養者の税金が増える場合があります。一方、「社会保険上の壁」は、「超えると社会保険料が増える壁」です。被扶養者であっても扶養から外れて自ら社会保険に加入して、社会保険料を納める必要が出てきます。 では、まず「税法上の壁」から具体的に見ていきましょう。 ◇100万円の壁…住民税がかかる 年収100万円は、住民税がかかるかどうかのボーダーラインです。被扶養者の給与収入が100万円以下の場合、住民税はかかりませんが、100万円を超えると住民税がかかるようになります。ただし、お住まいの地域によっては、100万円未満(96万5000円・93万円を超えた場合)でも住民税がかかる場合があります。 ◇103万円の壁…所得税がかかる 年収103万円は、所得税がかかるかどうかのボーダーラインです。所得税は、年収からさまざまな控除を受けて残った金額(課税所得)に所定の税率をかけて計算します。一般的にパートの場合には、年収から給与所得控除55万円と基礎控除48万円が差し引かれます。つまり、年収103万円以下なら所得がゼロとみなされ、所得税がかかりません。しかし、103万円を超えると所得税がかかります。 また、「103万円の壁」は、扶養者が「配偶者控除」を受けられなくなるボーダーラインでもあります。被扶養者の年収が103万円以下の場合、扶養者は、配偶者控除として自身の所得から38万円を差し引くことができます。もっとも、「103万円の壁」を超えても150万円までは「配偶者特別控除」が受けられ、所得から38万円を差し引くことができるので税額は変わりません。 ◇150万円の壁…配偶者特別控除に影響 「150万円の壁」は、「配偶者特別控除」の壁です。扶養者は、被扶養者の年収が150万円までなら、38万円の控除が受けられます。しかし、被扶養者の年収が150万円を超えると、配偶者特別控除の金額が段階的に少なくなり、扶養者の税金が増えることになります。被扶養者の年収が201万6000円以上になると、配偶者特別控除はゼロになります。 配偶者特別控除は、扶養者の収入にも制限があります。扶養者の合計所得金額が900万円(年収1095万円)、950万円(年収1145万円)を超えると段階的に減少し、1000万円(年収1195万円)を超えると利用できなくなります。 次に、「社会保険上の壁」には以下のようなものがあります。 ◇106万円の壁…社会保険の扶養から外れるケースも パートでも年収106万円を超え、次の五つの条件を満たすと、自らの勤務先で社会保険に加入しなくてはならなくなります。 〈1〉所定労働時間が週20時間以上 〈2〉月額賃金が8万8000円(年収約106万円)以上 〈3〉雇用期間が2か月を超える見込み 〈4〉学生でない 〈5〉勤務先の従業員数が51人以上(または50人以下でも労使合意のある会社) 現在、「106万円の壁」については厚生労働省が改正案を提出しており、賃金と企業要件などを撤廃して、社会保険への加入要件を「労働時間が週20時間以上」のみとする方向で議論が進んでいます。 ◇130万円の壁…社会保険の扶養から外れる 現在、「106万円の壁」の条件に該当しない人でも、年収が130万円を超えた場合は、自らの勤務先の社会保険に入るか、国民年金・国民健康保険に入る必要があります。 年収130万円と判断される金額には、給与だけでなく、交通費、残業代、ボーナスなどの金額も含みます(106万円の壁では交通費、残業代、ボーナスは含みません)。ですから、年収が130万円を超えるかどうかを判断する際、計算を間違えないようにする必要があります。