映画化もされた介護付きシェアハウス、フェスやオーダーメイドの葬式も開催! ご近所さんも子どもも”ごちゃ混ぜ”に集うカオスさが介護の常識を覆す「はっぴーの家ろっけん」兵庫県神戸市
「そんな介護保険サービスは存在しないんですが、その人のために皆、動きたいという思いがある。それを実現するために、使える制度やサービスないかなと、探して、はめ込んでいくんです」(岩本さん) ろっけんで、葬儀まで執り行ったのは、20件以上。何人もの「家族」を看取った岩本さんの心を強く揺さぶったのは、余命宣告を受けたPさんが残した言葉だった。自室にこもっているPさんをみて、岩本さんは、スタッフのリモートミーティングをPさんの部屋でやろうと企画した。岩本さんは、部屋にパソコンを持ち込み、Pさんの好きなお酒も準備して、オンライン会議に参加してもらった。そのうち、スタッフがPさんに悩みを打ち明け、人生相談に。 「若い男性スタッフが、彼女の悩みを相談すると、Pさんは、こう言ったんです。『お前そんな後先考えてどないすんねん。今しかないやろ』って。いつ亡くなってもおかしくない状態だったPさんのひと言は重かった。ぼくにとっても大切な言葉。今やろう、今やるしかないやんって」(岩本さん)
首藤さんが、スタッフに伝えているのは、「3割きっちり、7割余白」。その時、その瞬間の本人にとって一番必要なものは何なんだろうということを考えて、しっかり押さえるのが3割。 「その他の7割は余白として、あえて決めきらずにおいておく。そのほうが、柔軟に対応できるし、ケアする側の自主性や偶発的に生まれる何かを生み出すことができる。その何が大事なのか、というところを抑えないと幸せではない」と首藤さんは語る。 ろっけんでは、誰が何をやってもOK。イベントや事業は、自主的、偶発的に始まる。唯一、禁止しているのは、「誰か」のために何かをすること。 「まずは自分自身が本当に欲しているのか、やりたいのかを考える。次に、目の前の3人をハッピーにするのはどうしたらいいかを考える。そして、自分のエゴを社会化していく作業をする。社会のためとか見えないペルソナ(※)を追っかけないことです。だって、そもそも、社会は、人の集まりでしょう?」(首藤さん) ※マーケティング用語で、サービスや商品の提供をする際に、主な顧客層となる対象について、性別や年齢、志向性など人物像を設定すること 最後に、多彩な事業を拡げている首藤さんに、自分を表す言葉をたずねると、「忘れる人」という答えが返ってきた。 「ぼくは、過去に言ったことは、全部忘れる。うまくいったことも、全部忘れる。理想は1年後、違うこと言っていることです」(首藤さん) 首藤さんが見ているのは、常に前。目の前にいる人が、どうすれば、ハッピーになれるか?を問い続け、挑戦は続いていく。 取材を通じて、人は、「繋がり」があれば、生きていけると感じた。時には、寄りかかってもいい、寄りかかられてもいい。そんな場所が街に増えれば、生きることが少し楽になりそうだ。 ●取材協力 ・はっぴーの家ろっけん / 株式会社Happy ・首藤義敬
内田優子
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