画期的な「がん治療」に道 基礎研究から花開いた本庶氏のノーベル賞
12月に入り、いよいよ10日(日本時間11日未明)、スウェーデンのストックホルムでノーベル賞の授賞式が開かれます。今年は京都大の本庶佑(ほんじょ・たすく)特別教授がノーベル生理学・医学賞を受賞しました。みなさんの記憶にも新しいのではないでしょうか。 【写真】ノーベル賞の本庶氏 患者の感謝の言葉「何の賞もらうより嬉しい」
受賞理由は、現代で最も恐るべき病の一つである「がん」の全く新しい治療法を開発したため。本庶博士と、同時に受賞したジェームズ・アリソン博士(アメリカ・テキサス大学MDアンダーソンがんセンター)が発見した「免疫チェックポイント阻害剤」を使ったがん治療法は、外部から手を加えてがんを排除するこれまでの方法(外科手術・放射線治療・化学療法《抗がん剤》など)とは異なり、私たちの体にもともと備わっている「免疫」の力を利用してがんを排除するものです。これまでの治療法では十分な効果を得られなかった患者にも治療効果が期待できるということで、がん治療の進展に大きく貢献したことが評価されました。 がんについては、有効な治療法を探るため、長年盛んに研究がおこなわれています。両博士はもともと免疫学の研究者です。免疫の研究を進めるうちに、その研究成果をがん治療に応用するアイデアを思いつき、その実現のために粘り強く研究を続けたことが、今回の受賞につながりました。それは一体どのような研究だったのでしょうか。両博士のこれまでの研究を紐解きながら紹介します。
免疫にはがん細胞をやっつける力がある
そもそも免疫とは、どんなものでしょうか。それは自分の体(自己)と、花粉や病原体などの外来異物(非自己)とを見分けて、非自己を体内から排除する仕組みです。がん細胞は、もともと自分の体の中にある細胞ですが、それががん化することで免疫に異物と認識され、排除される対象となります。がん化した細胞を排除する際に活躍するのが、パトロール役の抗原提示細胞、攻撃の司令役のヘルパーT細胞、攻撃役のキラーT細胞です(図2)。抗原提示細胞が異物の情報をT細胞に伝えると、ヘルパーT細胞はキラーT細胞に攻撃命令を出します。キラーT細胞は攻撃対象を特定すると、攻撃を仕掛けて、異物を排除します。このようにして、私たちの体は日々生まれるがん細胞を排除することで、病気としての「がん」の発生を防いでいるのです。