画期的な「がん治療」に道 基礎研究から花開いた本庶氏のノーベル賞
こうした免疫の持つ能力を上手く利用すれば、がんの治療も夢ではないかもしれません。実際、免疫の力でがんを治療する実験的な試みは、19世紀後半から始まっていました。現代に至るその過程では、免疫学の基盤となる発見が数多くなされ、その中のいくつかの研究はノーベル賞も受賞しました。しかし現在においても、免疫によるがんの治療効果が科学的に証明されているものは数が限られています(参考1)。 その流れとは全く別のところで、1990年代、アリソン博士と本庶博士は、T細胞の表面に存在するタンパク質、CTLA-4 (cytotoxic T lymphocyte antigen 4=細胞傷害性Tリンパ球抗原4) とPD-1 (Programmed Cell Death 1=プログラム細胞死1) にそれぞれ着目し、その未知の機能を明らかにする研究をそれぞれスタートさせました。
T細胞の暴走を抑える「CTLA-4」の発見
アリソン博士は、「CTLA-4」はT細胞が活性化するとその膜表面に現れ、T細胞の働きにブレーキをかけることを発見しました。また、他の研究グループがCTLA-4を持たないマウスを作り出したところ、それらは生後1か月ほどで死んでしまうことが分かりました。 研究者たちは、CTLA-4を持たないマウスがすぐ死んでしまうのは、免疫にブレーキがかからず暴走して、免疫細胞が自分の細胞を攻撃し続けてしまう(自己免疫疾患になる)からではないかと予想しました。多くの研究者たちは、CTLA-4を自己免疫疾患の治療に利用しようとしました。一方、アリソン博士はがんに着目しました。もし、がんの原因が免疫にブレーキがかかっていることであれば、一時的にCTLA-4の働きを抑え、T細胞を活性化させれば、がんを治療できるのではないかと考えたのです。 そこで、がんがあるマウスにCTLA-4の働きを抑えるタンパク質(CTLA-4抗体)を与えたところ、がんが劇的に小さくなるという大きな効果を上げました。ここから、CTLA-4抗体をがん治療薬として使用するための研究がスタートしました。