なぜ高校サッカーVの青森山田は”ラフプレー論争”を凌駕するほど強かったのか
待望の先制点は松木が警告を受けてから5分後の前半37分に生まれた。 左コーナーキックでニアへ飛び込んだ丸山が、頭で決めた場面を巻き戻していくと松木に行き着く。自陣の中央で相手ボールをカットすると、そのまま左サイドをドリブルで突破。利き足の左足で放ったクロスが相手に防がれ、ゴールラインを割った直後に両手を大きく振り上げながら、国立競技場のピッチに咆哮をとどろかせた。 「このコーナーでいくぞ、と言いました」 仲間を鼓舞した叫び声の中身を明かした松木は、先制点をこう振り返る。 「チームに勢いがなくなっていた時間帯だったので自分で仕掛けて、コーナーを取りにいくような形でクロスを上げて上手くコーナーを取れた。それが得点につながったことに関しては、自分の気持ちが伝わったのかなと思っています」 2点をリードして迎えた後半10分には3試合連続となる今大会4ゴール目を決めて、黒田監督をして「だいぶ試合がやりやすくなった」と勝利を確信させた。 左サイドから藤森が放ったロングスローが一度はね返されるも、詰めてきた藤森が今度は頭で中央へ押し込む。以心伝心とばかりに飛び込んできた松木が豪快に頭を一閃。1年生から積み上げてきたゴール数を「10」に到達させた。 「犠牲になれば(最後は)必ず自分のところに(チャンスが)転がってくると思うので。そこは今大会を通じて自分が得た収穫かなと思います」 犠牲心の対価が一昨年、昨年と奪えなかった3点目のゴールになったと淡々と語った松木は、こんな言葉も続けている。 「決勝戦に関しては、自分たちのモチベーションを高め合いながら最高のウォーミングアップができたので、これはもう勝ったなと確信しました」 終わってみれば初めて決勝へ勝ち進んできた大津に、前後半を通じて一本もシュートを打たせなかった。大津の森田は試合後にこんな言葉を残している。 「押し込まれる展開になることはわかっていましたけど、思ったよりも青森山田さんの圧力とパワーがすごくて、自分たちが後手、後手に回ってしまった」 高川学園(山口)に6-0で圧勝した8日の準決勝でも、青森山田は後半に一本もシュートを打たせていない。加えて大会を席巻した高川学園のトリッキーなセットプレーも、前後半を通じてコーナーキックがゼロという展開で一度も発動できなかった。 「青森山田さんとは日常が違うな、と。日常からもっと激しく、もっと厳しくしのぎを削るようなトレーニングを積み重ねていかなければいけない」 高川学園の江本孝監督のコメントに大津の森田のそれを合わせれば、青森山田の勝因がはっきりと伝わってくる。球際の攻防を圧勝の形で制し続け、対戦相手の体力やチャンスだけでなく戦意も奪い、終わってみれば一方的な展開になる。 「決勝戦では本当にパーフェクトなサッカーをやってくれたと思っている」