なぜ高校サッカーVの青森山田は”ラフプレー論争”を凌駕するほど強かったのか
2大会続けて決勝の舞台で苦杯をなめさせられてきた。2年前は静岡学園(静岡)から2点のリードを奪いながら逆転され、昨年は山梨学院(山梨)に2-2の同点に追いつかれた末にPK戦で敗れた。PK戦は自身に順番が訪れずに4人目で終わった。 迎えた最後の1年。キャプテンを拝命した松木は誓いを立てた。 「三冠を獲得しよう」 夏場のインターハイ。Jクラブのユースチームも加わり、8ヵ月間をかけて頂点を競う高円宮杯U-18プレミアリーグEAST。そして全国高校選手権をすべて制する戦いを、黒田剛監督は「いまの時代、そんなに甘いものではない」と当初は受け止めた。 加えて、3大会連続で全国高校選手権の決勝に進出していた青森山田へ、全国規模で包囲網が生まれつつあった。昨春の状況を黒田監督はこう振り返る。 「打倒・青森山田という言葉が全国各地から聞こえてきたなかで、もちろん選手たちの耳にも入っていた。かなりの重圧が彼らの肩にのしかかっていたと見て取れましたけど、ただその何倍ものパワーを感じたというか。そうしたものを簡単にはねのけるぐらいの、彼らの勝ちたいというすごい意欲を間近で見られた1年間でした」 インターハイは準決勝で静岡学園をシュート0本に封じて4-0で圧勝。決勝では米子北(鳥取)に追い詰められながら、後半終了間際にクイックスローから、延長後半アディショナルタイムには左コーナーキックからともにDF丸山大和(3年)がヘディング弾を一閃。16年ぶりの頂点に立った瞬間に、松木はピッチ上で号泣した。 プレミアリーグでは柏レイソルU-18、清水エスパルスユースに敗れたものの、新型コロナウイルス禍の影響で消化試合数が異なるなかで、1試合あたりの平均勝ち点「2.50」と10チーム中で最高の数字を残して優勝。16試合における総得点「45」は18試合を戦った清水と並ぶ最多、総失点「9」は唯一のひと桁をマークする最少だった。 シーズンを戦いながら、志向してきた戦い方を指揮官はこう表現する。 「相手にシュートを打たせないし、リスタートも取らせない。堅守速攻だけでなくボールポゼッション、リスタートとすべてにおいて何でもできるサッカーを目指してきた」 常に相手を超越するサッカーを具現化させる上で、一丁目一番地になるのが球際の攻防を制することになる。雪に覆われる冬場に課される室内トレーニングで、徹底的に鍛え上げられたフィジカルの強さを雪解けと同時にピッチ上で発現させる。 シーズン中も筋力トレーニングが継続された肉体の強さは、高校生レベルでは異次元に映る球際での強さを発揮。迎えた決勝でも青森山田が全力を出してボールを奪うほどに、ラフプレーではないかとネット上で議論を呼ぶ状況を何度も生み出した。 巧さと華麗さに力強さ、何よりも泥臭さを完璧に融合させた今シーズンの青森山田の心臓を担った松木へ、決勝後のオンライン会見で黒田監督は賛辞を惜しまなかった。 「まるで監督やコーチのように、いろいろな局面で選手たちに対して厳しい言葉をかけるなど、たとえそこにストレスが生じようと、あるいは嫌われようと、チームが勝つために犠牲心を持ってやってくれた。注目されるなかでもチームプレーに徹し、決して『自分が、自分が』とならないようにコントロールしてきたと思うし、そうしたキャプテンの姿を見てみんなが必死についていく状況も生まれたと思っている」