ジュビロ磐田に遠藤保仁の移籍効果はあったのか?
キックオフからわずか10秒で、右ウイングバックの松本昌也が遠藤へボールを預けた。7秒後には今度はFW小川航基が「50番」へパスを送る。開始5分で遠藤がパスをさばいた回数は12回を数えた。あくまでも単純計算だが、90分間で配球したパスは200本を超えるペースになった。 絶対にボールを失わないという信頼感のもとで、ボールをもった選手はまず遠藤を探す。遠藤自身も味方が出しやすい場所を瞬時に見つけて、素早く移動するプレーを繰り返す。決して低くない確率で見られる、パスを出した味方へそのままボールを返すプレーを、遠藤自身はこう語ったことがある。 「あまり攻め急がないというか、意味のないパスに映ってもボールを回しているのが自分は大好きなので。1対1で勝負を挑むのは、僕の場合はほとんどないですね」 ボールを回し続けることで試合を支配し、相手にプレスの狙いどころを絞らせず、時間の経過とともに焦らせ、そして心身両面で疲れさせる。試合を通したボール支配率が70%近くに、チーム全体のパスの総数も山雅の3倍近くに達したリズムのよさと、遠藤の存在は決して無関係ではない。 「やっぱり落ち着きが出て、(プレーに)ためもできて、前の選手がいい動き出しをすると(いいボールが)出てくるとプレーしていて感じていました」 トップ下を務めた元日本代表の山田大記は、遠藤の加入効果をこう語った。そして、無念のスコアレスドローに終わった試合後に、チーム内にポジティブな変化が生じたとも明かしている。 「前の選手たちがもっといい動き出しをすれば、もっといいボールを引き出せたんじゃないかと、みんなで話し合っていました」
連敗こそ3で止めたが、勝ち星なしは8試合(4分け4敗)に伸び、順位も14位とひとつ下げた。残りは17試合。J1への昇格ラインとなる2位のアビスパ福岡との勝ち点差も18ポイントに開いたなかで、遠藤も「勝ち点3を取るべき試合だった」と悔やみながらも前を向いた。 「みんなの自信を取り戻すためには勝利が不可欠だと思うので、次の長崎戦でしっかりと勝利してチーム全体としていい雰囲気になって、ここからの連戦を乗り切ればまだまだチャンスはある。今日は形もよかったと思うので、これを繰り返しながら得点に繋げていきたい」 過密日程が組まれている今シーズンを象徴するように、次節は中3日で4位のV・ファーレン長崎をホームのヤマハスタジアムに迎える。敵地で対戦した9月13日はスコアレスドローだったものの、ボール支配率では後塵を拝した相手。遠藤が加入した意義が、再び問われる一戦になる。 「これから練習や試合を重ねるにつれて、自分の役割であるとか、やらなきゃいけないことが見えてくると思うので。それらをしっかりと整理して、若い選手やベテランの選手たちと一緒になっていいものを作り上げながら、自分のサッカー人生に新たなページを作り上げていきたい」 ハードワークとフィジカルがさらに重視される、いま現在のサッカーに対するアンチテーゼとばかりに、期限付き移籍する選手では異例となる記者会見をガンバで開いた遠藤はこんな言葉を残している。 「変化を与えられる選手は見ていて美しいと思うので、向こうでもそういう選手になれればと思う」 ボールを受け続け、パスをさばきまくり、コーナーキックを含めたすべてのセットプレーのキッカーも担った初陣で、自らが加わることで生じる化学反応の一端をさっそく見せた。さらに鮮明に、そして美しい変貌を遂げて勝つために。今シーズン終了までの短期契約で加わり、自ら「新しいチャレンジ」と位置づけたジュビロでの日々を遠藤は全力で駆け抜けていく。 (文責・藤江直人/スポーツライター)