石川佳純(元卓球日本代表)「辞めなくて良かったと思いました、あの時に。辛かった時に」──パリ2024オリンピック特集「レジェンドが名場面を振り返る」
卓球日本代表、パリ五輪はどうなる?
──今回は後輩の卓球選手が、パリ五輪の代表争いで苦しんでいました。 どちらかが勝って、どちらかが負ける。負けたほうが頑張りが足りなかったかっていうと、そうじゃないんですよ。でも必ず勝負はつく。厳しい世界です。だからこそオリンピックには価値があって。でももう最後は自分でやるしかない、自分で勝っていくしかない。みんな本当に頑張っている、すごく頑張っている、精いっぱいやっているっていうのは、見ていて思いましたね。 ──その気持ちが揺れている様子も、石川さんは見ていてわかるのでしょうね。 もちろん、わかります。自分のことのように感じます。試合を見ていても、おかしいんですよ、プレイが。いつもどおりにやったら余裕で勝つのが、競っちゃう、負けちゃう。それって、自分でコントロールできないんですよね。もうわからない。そういう気持ちは自分ももちろん経験しています。何とか乗り越えようと頑張っている後輩を見ていると、めちゃめちゃ他人事になっちゃうけれど、本当に素晴らしい、尊い。でもそういう時間って人生の中で本当に、たぶん1回か2回しかないんです。そこまで頑張れる、自分の全てをかけてやる時間だからこそ、厳しいけれどそれに価値があるというふうに思いましたね。 ──そういうことを助言してあげたりってことは。 みんなが争っているので、誰か一人にするのはちょっと。自分が言ったからプラスになるとかは関係なく、声をかけてあげたい気持ちはもちろんありますよ、人間なんで。だけど見守ります。自分も余計なことは言いたくない、みたいなところもあって。難しいんですよ、これ難しいんです。本当にこれだけにみんな賭けているので。 ──すごいところにいたことを再認識するのでしょうね。 もう勝っていくしかない、何があっても勝っていくしかないって、そういう厳しい世界。でも、みんな頑張っていて、輝いていました。頑張っている姿はすごく素敵で、美しいなって思いました。他人事なんですけど、それでもわかります。ちょっと離れたからこそ、あの頑張っている姿、必死で追いかけている姿って、すごく素敵だなって。その中から離れると、本当にもうその時の自分があまりわからなくなっちゃうんです。そのときの表情も、自分はもうできないし、プレッシャーとかを感じてハッ!と集中した顔はもうできない。だからこそ、卓球もそうですし、他の競技の選手のあの表情を見た時にすごく感動しますし、美しい表情だなあっていうふうに思うんです。 ──泣いてしまう石川キャスターを見られるかもしれないですね。 涙腺を焼いておこうかと思って(笑)。それはだめじゃないですか、訊く立場として。とにかく競技が終わったばかりの選手インタビューに立ち会えるって、本当に貴重なことだと思っているので、泣かないようにしないといけませんね。 ──それでも感極まってっていう場面が。 いやもう涙腺焼いておきます(笑)、絶対そうなっちゃうから。キャスターとして、しっかり選手たちの声を引き出せるように頑張りたいと思います。 ──キャスターとしてフラットに見なきゃいけないんでしょうけど、卓球の見どころと展望をお願いします。 団体女子は金メダルを狙っていると思います。東京大会から日本のレベルもグッと上がって、中国に近づいてきています。厳しいレースを乗り越えてきた3人はレベルアップしていると思うので、今度は金メダルに挑戦してほしい。シングルスも女子はメダルの可能性が高い。自信をもって戦ってほしいと思いますし。シングルスの張本君など、男子もメダルを期待できると思います。団体は男女ともにメダルに期待しています。 ──張本兄妹は期待できますね。とくに妹の美和さんは一気に頂点まで上り詰めそうな勢いです。 強いですよ。15歳ですけど、クレバーなんですよ、すごく。同じチームで練習も一緒にしていたのでわかりますが、本当にクレバー。今でも強いですけど、もっとさらに強くなっていく選手だと思うんです。若手だからっていうよりは、しっかり点をとってくれる選手だと思うので、パリ大会でも期待しています。 ──それにしても、兄妹でオリンピックに出るってすごくないですか。 考えられないですよね。柔道の阿部兄妹もそうだし、張本兄妹も。二人ともすごく強い。パリ大会に限らず、この先も日本の卓球界を引っ張っていく存在なので応援しています。
石川佳純 元卓球日本代表 1993年、山口県生まれ。両親共に元卓球選手という環境で育ち、小学1年生で競技を始める。小学6年生で初参戦した全日本選手権で3回戦に進出して注目を浴び、2011年の全日本選手権ではシニアを初制覇する。12年ロンドン五輪女子シングルスでベスト4入りを果たし、女子団体では銀メダルを獲得。16年リオデジャネイロ五輪女子団体では銅メダルを手にした。21年全日本選手権女子シングルスで5年ぶりの優勝を果たし、21年東京の五輪女子団体では銀メダルを獲得した。 文と編集・神谷 晃 AKIRA KAMIYA(GQ)
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