石川佳純(元卓球日本代表)「辞めなくて良かったと思いました、あの時に。辛かった時に」──パリ2024オリンピック特集「レジェンドが名場面を振り返る」
キャスター、石川佳純
──オリンピックのキャスターとして伺います。どの競技が楽しみでしょうか。 絞れない(笑)。これ、すごく難しくて。いやもうたくさんあるんですけれど、兄妹でのオリンピック二連覇がかかっていて、そんな偉業に挑戦する、柔道の阿部兄妹です。先月取材する機会があって、組み方を教えてもらったり、実際に投げてもらったり、超一流の技を私自身が体感させてもらったこともあって、「金メダルを獲得する瞬間を現場で見たい!」っていう楽しみな気持ちがあります。 もう一つは、ブレイキン。こちらも取材する機会があったシゲキックスさんに注目しています。練習をすぐ近くで拝見しましたが、もうすごいです。感動しました。新しくオリンピックに採用された競技なのに、いきなり日本中の期待を背負って大変なところもあると思います。でも明るくすごく前向きで、メダル候補としてすごく楽しみです。 ──すっかり、記者の視点ですね。 超一流の選手たちを間近で見られる。試合会場ではあり得ない距離です。これだけ間近で感じられて、しかも取材をさせてもらえるのは責任も伴いますが、キャスターの特権ですよね。身が引き締まる思いです。間近で超一流の技を見られて、感じられる──それが一番今うれしいんです。 ──パリの切符を巡っては、卓球女子は熾烈な争いでした。石川さんも東京大会の時には経験しています。前回のインタビューで「辛かったけれど、成長に繋がった」とおっしゃっていたんですけど、今振り返ってみて、あの経験ってどんなものだと思いますか。 めっちゃ追いこまれていましたよね、あれは。 ──関係者でもないのに、石川さんの苦悩を思い出してもちょっと泣いてしまいそうです。 どんな時間だったんですかね。自分の中で、心技体がピークだった頃とはいろんなことが変わってくるタイミングでした。選手としては後半戦、競技レベルは維持できているんですけど、負けちゃったりとか、悔しい思いが大きくなってくる時に、それでも続けられるかどうか……すごく苦しかったです。頑張ればすぐに結果が出るわけではないですし、やり続けて結果が出るか出ないかもわからない。むしろ、結果が出ない時が多かったり。でも辞めなくて良かったと思いました、あの時に。辛かった時に。 ──選考レースを密着したドキュメンタリーを拝見しましたが、本当に苦しそうでした。 選手を辞めようか考えましたけども、あの時辞めなくて良かったと、今考えても思います。実は東京オリンピックが終わったらすぐ辞めようと思っていたんですけど、それでもすぐに辞めずに2年くらい卓球を続けられて、本当に良かったと思っています。 ──辞めることも一瞬ちらついたんですね。 一瞬じゃなくて、毎日思っていました。でも逃げるわけにはいかない。ここまでやってこられたのも、周りの人に支えてもらったからこそ。「ここで辞めるわけにはいかない」っていう考えもある意味で自分の支えになりました。 ──東京オリンピックの期間中に、アメリカの新体操選手のシモーネ・バイルズはメンタルヘルスの問題を理由に棄権しました。 もう精いっぱいやったというか、みんなギリギリのところでやっているので、それがシモーネ選手はその時に、たまたまっていうか。いっぱいいっぱいの気持ちっていうのは、自分なりにわかる気がします。 ──トップクラスの競技選手は、一歩間違ったら、誰もがそういう気持ちに。 オリンピックに出ているような選手が、無敵というか“メンタル激強(げきづよ)”みたいなことはない。絶対落ちこみませんとか、私は前しか見ません、みたいな感じかっていうと、そんなことはないわけです。リオ大会までは、自分はメンタルが強い、強靭だと思っていましたけど、全然そうじゃなかった。長い選手生活を振り返ってもそれはすごく感じるし、それは皆そうなんじゃないかなと思います。結局は、オリンピックを目指す時間というのは、自分と向きあって鍛えていく、弱い自分を強くしていくっていう時間なのかもしれません。
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