孤独と熱意が人間性を育む――米津玄師が宮﨑駿から受け取ったもの
宮﨑駿監督(82)の最新作『君たちはどう生きるか』が公開されると同時に、米津玄師(32)が主題歌を提供していることが明らかになり、話題を呼んだ。幼少期から宮﨑監督やジブリ作品に多大な影響を受け、音楽を作る上での指針でもあったという。宮﨑監督から何を受け取り、これからどう生きていくのか。(取材・文:長瀬千雅/撮影:秦和真/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部/文中敬称略)
「面倒くさくないとおもしろくない」
スタジオジブリの「宣伝しない」戦略により、宮﨑駿の最新作に米津玄師が関わることは、映画公開まで伏せられていた。50歳差のコラボレーションは、それ自体がニュースになった。 映画『君たちはどう生きるか』は、公開1カ月で観客動員数400万人を突破。主題歌「地球儀」を書き下ろした米津は、今の心境をこのように吐露する。 「ようやく一安心ですね。たくさんの人が映画を見てくれていると聞いて、自分の役目は終わったのかなという気分になりつつあります」 米津はかねてより宮﨑作品に多大な影響を受けていることを公言していた。二人の時間はどのように交錯したのか。
主題歌のオファーを受けてからの4年間に、米津は何度か、東京都小金井市にあるスタジオジブリを訪れた。 「どのタイミングだったか定かではないんですけど、宮﨑さんがパノラマボックスを作っていて。何枚もの薄いアクリルに絵を描いていって、それをレイヤーとして重ねると立体的に見えてくるという箱なんですけど。ジブリパークに寄贈するために、作品ごとに1箱ずつ作っていたんです。『千と千尋の神隠し』『もののけ姫』『紅の豚』……って。これは大変ですねと投げかけたら、宮﨑さんいわく、昔、子どもの頃に親に連れられて美術館に行く機会があったけれども、手抜きして作られたものは子どもながらに分かったんですよ、だから手を抜けないんですと。ジブリパークができるのであれば、自分が描いたものも必要だろうというぐらいの、軽い気持ちで作り始めたけれども、やってみるとものすごい作業量になってしまって、どんどん沼にはまっていく気がする。だから本当に面倒くさいんです。だけど、面倒くさくないとおもしろくないですからね。そんなふうにおっしゃっていて」 「襟を正されるような感じがしましたね。今はいろんなことが簡易化されているじゃないですか。こと音楽に関しても、サブスクで際限なく聴くことができるし、アルゴリズムで『これどうですか』と提示されもする。自分もそれで音楽を聴くことが常態化してはいるんですけど、思い返してみると、CDを買うにしても、チャリンコぶっ飛ばしてCDショップに行って、この店にはないから次の店行こうみたいな、その体験も含めて音楽の一部だったなって思うんですよね。だから、簡単に済ませるようになっていくと、気づかないうちに大事なことを取りこぼしていくんだろうなという気はします」