「AI彼女」「ヌード化」アプリをハック! フェミニズムアートが切り込むAI時代の「ジェンダー規範」
世に溢れる女性らしさや理想的な美しさへの違和感
フェミニストのアーティストたちは、かれこれ半世紀にわたって美しさと醜さを融合させる作品を生み出してきた。そうした表現は、1970年代の強烈なパフォーマンスにまで遡れる。たとえば《Catalysis VII(触媒作用VII)》(1971)という作品で、コンセプチュアル・アーティストのエイドリアン・パイパーは、「超絶にフェミニンな」服装でニューヨークのメトロポリタン美術館の中を歩き回りながら、ほかの来館者にくっつきそうなほど大きくガムを膨らませている。 その後、私たちを取り囲むメディア空間は肥大化していき、そこに溢れる完璧な女性像が全てを覆い尽くすほど増殖するようになった。これに反応したのが、ピピロッティ・リストのようなフェミニストのビデオ・アーティストだった。2008年にリストが発表して注目を浴びた《Pour Your Body Out (7354 Cubic Meters)(体を外に排出して [7354立方メートル] )》には、銀の杯に経血を貯める女性が登場する。 アルゴリズムの時代に入ってからは、アンナ・ウッデンベルグやジーナ・ビーヴァーズがバーチャル空間での理想的な美しさを立体に落とし込んだ作品を発表している。彼女たちが浮き彫りにしているのは、大きく膨らんだ唇やバスケットボール並みに丸いお尻のように、画面の中では美しくても現実世界で再現すると不気味に感じられる美の基準の不条理さだ。 ウッデンベルグが作る等身大でリアルな女性像は、プロポーションと柔軟性がひどく誇張されていて薄気味悪いが、その1つに2018年に制作された《FOCUS #2 (pussy padding)(FOCUS No.2 [陰部ガード] )》がある。それは、青い服を着た女性が両脚の間から頭を通し、鼻がお尻にくっつきそうなほど上体を持ち上げながら、自撮り棒を使って自分の陰部を撮影する様子を表したもので、苛立たしくも不条理な理想を世間に広めるメイクのチュートリアル動画やインスタグラム広告にヒントを得て作られたように見える。こうした動画や広告は、商品を売るために不安を煽り、欲望を作り出す。ちなみに私のアカウントのアルゴリズムも、肌に十分にハリがあるかどうか、今年に入ってからしきりに心配させようとしてくる。 こうしたネット上のビューティカルチャーを題材に、彫刻的なペインティングを制作しているのがビーヴァーズだ。メイクのチュートリアルをステップごとにグリッド状のパネルに描いた作品には、スモーキーな目元の作り方や赤いリップの塗り方など、伝統的なメイクテクニックを紹介するものもあれば、メイクとアートを融合させ、(巨大な)唇にゴッホの《星月夜》を描く方法を紹介しているものもある。紙パルプの上に油絵の具で描いたレリーフ状のビーヴァーズの絵は彫刻的で、鑑賞者がいる空間に飛び出てきそうに思える。しかしマットな仕上げの少し崩れたような絵柄の作品は、美をテーマにしているものの、決して美しくはない。 ウッデンベルグやビーヴァーズのようなアーティストは、こうした「女性らしいもの」を好む女性を嘲笑しているわけではない。もしそうなら、単に形を変えた女性蔑視になってしまう。むしろ、彼女たちは自分自身のアンビバレントな感情を作品の中で探求していると言えるだろう。