「抜毛症」を秘密にしていた女性 自分らしく生きることを決意させた夫のユーモア
高校を卒業後、さまざまな職業を経験して、28歳で芸者の世界に足を踏み入れた土屋光子さん。そこで日本舞踊・尾上流の舞踊家である尾上菊紫郎さんと出会った光子さんは、33歳年上の彼と結婚。だが彼女には、長年周囲に隠し続けていた秘密があった。子どものころから自分の毛を抜くことをやめられない『抜毛症』(ばつもうしょう)に悩まされ、深い苦悩を抱えながら頭髪を隠すためウィッグを使い続けてきたのだ。結婚して5年、ついに隠していた秘密を打ち明けたとき、菊紫郎さんは優しくユーモアにあふれる言葉で、光子さんを受け止めた。(取材・文・写真:NHK「超多様性トークショー!なれそめ」取材班/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
誰にも言えず、ひとりで抱え続けた「抜毛症」
1980年生まれの土屋光子さんは、小学校低学年のころから自分の髪の毛を抜くことがやめられずに頭髪が極端に薄くなり、それを隠すために高校時代から常にウィッグを使い続けてきた。毛髪を抜くことを繰り返し、脱毛状態に至る慢性疾患「抜毛症」だった。 抜毛症は、小学校の後半から中学生ごろの思春期に発症することが多く、数十年という期間にわたって症状が続く人もいるという。一般的に、発症時には何らかのストレスが存在しており、そのストレスのはけ口として抜毛が始まるとされている。だが数年経過すると、特にストレスがなく、抜毛という行為が不合理だと理解できていても、やめられなくなってしまうという。 光子「自分でも『何でこうしちゃうんだろう』って思っているんですよ。やめればいいのに、やめられない。『普通じゃないことをしている』という認識があるから、それを誰かに話すことには抵抗があったんです。理解されないと思ったので。」 脱毛状態を誰にも知られたくない光子さんは、体育の授業には一切出ない、ウィッグをつけて気づかれないようなものにするなど、「バレたくない」一心で毎日を過ごす。いつも胸の中にあったのは、「こんな私を、どうせ誰も愛してくれない」という思い。当時は恋愛にも積極的になれなかった。