「抜毛症」を秘密にしていた女性 自分らしく生きることを決意させた夫のユーモア
光子「いつか言わなきゃいけないなとは思っていて。例えば交通事故や災害に遭って、ウィッグを付けていることがいつかバレてしまうんだったら、先に言わないといけないと思いつつ、日常の中では怖くて言えない、という状態が続いていました。」 そして出産と育児をきっかけに、光子さんは自分が抱える問題に真正面から向き合おうと考え始める。そのころ、2人目の子どもを妊娠したことで、経済的な問題もひっ迫していた。当時、光子さんが使っていたウィッグは、ひとつが50万円ほど。およそ2年に一度ウィッグを購入してきたために、すでに数百万円を費やしていた。 光子「子どもにもお金がかかる中で、これは続けていけないなと思いました。そして、本当に髪に人生を左右されてきたので、いい加減にやめたい、と。どこかで決着をつけるというか、『もういいや! 私は私で生きていく』という気持ちになって、夫に話すことを決意しました。」
ユーモアたっぷりに返ってきた言葉に救われた
光子さんが菊紫郎さんにすべて打ち明けたのは、家族旅行で訪れた伊豆の旅館。お風呂あがりに、菊紫郎さんの前でウィッグを外し、抜毛症のことや、これからは隠さずに暮らしていきたいという思いの丈を語った。 「もうウィッグを買いたくないし、中途半端に髪の毛が残っている状態も嫌だから、全部剃ってしまいたい。いいかな?」 勇気を出した光子さんの告白に対して、菊紫郎さんからの反応は意外なものだった。 「そうか、君は結婚しているけれど、頭を剃るっていうことは、尼さんになるんだね~!」 この言葉に、光子さんの悩みは一気に晴れた。 光子「否定でもなく、驚きでもなく、問い詰めでもなく、ユーモアで返してくれたのはとてもありがたかったですね。普通は驚くと思うし、いろいろ聞いてくると思うんですけど、一切その場では抜毛症や頭髪のことについて聞いてこなかった彼にとても安心しました。」 光子さんがウィッグを外した姿に、菊紫郎さんは愛する妻の長年の葛藤を感じ取っていた。 菊紫郎「そんなにショックでもないし、逆に神々しく見えたから……。感情的な揺らぎはありませんでした。見た目で好きになったわけではないから、かもしれませんね。告白の前と後で、関係性は何も変わりません。ずっと彼女はそれと闘ってきたんだろうと思いますが、そんなに大したことじゃないと伝えるのに、言葉ではなく態度で示していました。」