「正解答案」だった日米共同声明 踏み込んだ「台湾」問題と重い「宿題」
(5)なぜ日本が最初?
ところで「最初に対面した外国首脳になぜ日本を選んだのか」という質問を何度も受けている。ただアメリカ側が日本を選んだというよりも、日本政府側が「最初」にこだわり、粘り強く交渉し、「最初」を勝ち取った形である。アジアの最大の同盟国である日本の要求をアメリカ側も無下に扱わなかったのは言うまでもない。政権発足から100日を迎える前に同盟国のトップをホワイトハウスに招待することは、バイデン政権にとっても外交上の実績作りでも悪い話ではない。 「最初」であることにどれだけ実際の意味があるのかは何とも言えないところだ。それでも「初めての外国首脳」ということでアメリカの各種メディアもそれなりに報じられた。もし、2番目や3番目だったら、そうではなかったはずだ。特に現在、日米関係は良好であり、両国間の深刻なずれを解消するような問題の解決のための会談ではなかったため、アメリカ側のメディアの注目度はそもそも低かった。 バイデン政権の対中、対北朝鮮戦略はまだ現在、策定中であり、まとまっていない部分もあるといわれている。2+2に加え、今回の首脳会談を通じて日本側の見方をバイデン政権にインプットする機会を確保したという意味で、やはり「最初」だったことには実際的な意味もある。バイデン政権の場合、環境や人権などを引き合いに出して中国と交渉を進めていく可能性があり、バイデン政権の出方を確認する意味でも日本にとっては良い機会だったのではないだろうか。
対中ミサイル防衛や気候変動へのより強い関与
中国の脅威の前に、日米の結束を印象付けることができたことが、今回の首脳会談で日本が得た最大の成果といえる。今回の首脳会談の共同声明がバイデン政権の対日外交姿勢となっていくだろう。日米関係が貿易や構造協議などの問題ではなく、安全保障や環境、人権などでの協力を議論する場に大きな変貌を遂げたのも印象的だった。 共同声明にはなかったが、訪米時に菅首相がファイザー社のブーラCEOとの電話会談をし、日本の16歳以上の全員が接種できる数量の新型コロナウイルスワクチンの追加供給を9月末までに受けられるとの合意があったと報じられている。この報道が正しければ、日本国民への分かりやすい成果を出すために、訪米前に日本政府が入念に準備したことになる。 一方で大きな課題もある。対中ミサイル防衛や日本の防衛費増額は日本の宿題になっている。首脳間で議論になったか定かでないが、周囲は念頭に置いている。記者会見でも共同声明でも触れられた普天間基地の移転問題は日本側の大きな課題である。 また、報じられるところによると首脳会談の前後に行われた調整の中で、日本側は温室効果ガス大幅削減を要求されたとされている。近く開催される気候変動サミットで、日本側はこれまで打ち出していた2030年時点の温室効果ガスの2013年度比「26%削減」から大幅に引き上げ、「50%削減」を提示する可能性も出ている。積極的な気候変動対応についての世界的な潮流は変わらないところではあるが、現時点では産業界をしっかり説得しないとかなり難しい。 日本側の「宿題」もかなり大きいのが今回の首脳会談だった。 ------------------------------------------- ■前嶋和弘(まえしま・かずひろ) 上智大学総合グローバル学部教授。専門はアメリカ現代政治。上智大学外国語学部英語学科卒業後、ジョージタウン大学大学院政治修士課程修了(MA)、メリーランド大学大学院政治学博士課程修了(Ph.D.)。主要著作は『アメリカ政治とメディア:政治のインフラから政治の主役になるマスメディア』(単著,北樹出版,2011年)、『オバマ後のアメリカ政治:2012年大統領選挙と分断された政治の行方』(共編著,東信堂,2014年)、『現代アメリカ政治とメディア』(共編著,東洋経済新報社,2019年)など