トランプ、ウクライナ支援継続で「戦況逆転」の可能性も…「本当に怖い存在」習近平の中国との関係は?
<お得意の駆け引き? 大統領選ではウクライナ支援の打ち切りもちらつかせていたが、日本にとっては国益になる方針転換とも考えられる>【木村正人(国際ジャーナリスト)】
[ロンドン発]ドナルド・トランプ米次期大統領の政権移行チームが今月、トランプ氏は北大西洋条約機構(NATO)加盟国に国防費を国内総生産(GDP)比の5%に引き上げるよう要求する一方で、ウクライナ支援は継続する意向だと欧州の政府高官に伝えた。 【動画】無表情のままエプロン姿でパンケーキを焼く習近平とプーチン...料理の腕前はプーチンに軍配か 英紙フィナンシャル・タイムズ(12月20日付)が協議に詳しい関係者の話として報じた。大統領選の期間中、トランプ氏は「ウクライナ支援を打ち切り、24時間以内にウクライナ戦争を片付ける」「NATO加盟国が国防支出を怠れば見放す」と公言し、欧州各国を震え上がらせた。 ドイツ初の女性首相として祖国を16年間導いたアンゲラ・メルケル前独首相は回顧録『自由 記憶1954~2021年』の中でトランプ氏は不動産業者のように損得勘定ですべてを見ていたと振り返っている。GDP比5%への引き上げ要求もお得意のブラフ(駆け引き)なのか。 ■GDP比2%をクリアするのは31カ国中23カ国 情報源の1人(匿名)はフィナンシャル・タイムズ紙に「トランプ氏は3.5%で決着をつけると理解している。国防費の増額と米国にとってより有利な貿易条件の譲歩を欧州から引き出すつもりだ」と語っている。 トランプ氏は第1次政権で当時、独首相だったメルケル氏を毛嫌いした。メルケル氏は国防費をGDP比1.2%台(現在、推定2.12%)に抑え、ウラジーミル・プーチン露大統領とバルト海の海底天然ガス・パイプライン「ノルドストリーム2」計画を進めたからだ。 トランプ氏にとって、貿易黒字を積み上げるドイツはまさに「NATOのタダ乗り」だった。 ■2%と5%の中間は3.5% 現在、NATOの国防費目標はGDP比2%。この目標をクリアしているのはNATO加盟31カ国(軍隊を持たないアイスランドを除く)中23カ国。 ロシアがクリミアを併合、ウクライナ東部紛争に火を放った2014年に2%をクリアしていたのは米国、ギリシャ、英国のわずか3カ国だった。 24年(推定)でポーランド4.12%、エストニア3.43%、ラトビア3.15%、リトアニア2.85%、フィンランド2.41%とロシアの周辺国は一段と警戒を強めている。 英米のテレビ番組を視ていると、交渉ごとでは双方のスタート地点のちょうど中間が落とし所になることが多い。 NATO目標の現在地がGDP比2%なのでトランプ氏が5%を主張すると中間地点は2+5=7、それを2で割って3.5%になる。だから落とし所は「3.5%」という見方が出てくる。 ■ウクライナの戦況は逆転できる 米国の支援が途絶えると、欧州だけでウクライナを支えるのは難しい。 プーチン寄りとみられていたトランプ氏がウクライナへの支援継続を決断したのが本当の話なら人肉をすり潰すようなロシア軍の猛攻で不利に立たされているウクライナの戦況は逆転できる可能性が出てくる。 フィナンシャル・タイムズ紙は12月12日付で「NATO欧州加盟国が国防費のGDP比3%目標について協議」「来年6月、ハーグでのNATO首脳会議で国防費増額が合意される可能性がある」と報じたばかり。 今月3~4日、ブリュッセルで開かれたNATO外相会合で極秘に協議され、当面は2.5%、30年までに3%を達成する道筋を描いている。 ■日本は米国の兵器購入、在日米軍駐留経費の負担増も 今年3月、ポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領は米紙ワシントン・ポストに「ロシアは年間予算の30%近くを国防費に充てている。今こそ国防費をGDP比3%に引き上げる時だ。米国とNATOなくして強い欧州はない」と寄稿していた。 第1次トランプ政権で戦略・戦力開発担当国防副次官補を務めたエルブリッジ・コルビー氏は今年1月、シンクタンク、英国王立国際問題研究所(チャタムハウス)での討論会で「日本は27年度に防衛費をGDP比の2%にすると言っているが、今すぐ3%にすべきだ」と注文をつけた。 トランプ氏にとって本当に怖いのはプーチンではない。中国の習近平国家主席だ。欧州諸国が自分たちの国防・安全保障にこれまで以上に責任を持つことは日本の国益になる。 米国が軍事資産をインド太平洋により振り向けられるようになるからだ。その一方で石破茂首相は防衛費拡大、米国の兵器購入、在日米軍駐留経費の負担増の要求を覚悟しなければなるまい。