激しさを増す水害に思う 温暖化という「新しい風土」に「新しい居住文化」を
熊本県を流れる球磨川流域をはじめ、各地に甚大な被害を出している「令和2年7月豪雨」。気象庁が「記憶にない」というほど、梅雨前線が長い期間停滞し、暖かく湿った空気が流れ込み続けたことが、記録的な豪雨につながりました。 建築家で、文化論に関する多数の著書で知られる名古屋工業大学名誉教授・若山滋氏は「毎年繰り返される被害をなくすために、日本人の住まい方を変える時期だ」といいます。若山氏が専門家の視点で論じます。
繰り返される光景
強く降り続く雨、怒涛となって荒れ狂う川、堤防を切って溢れ出す泥水、二階まで水に浸かった家、横倒しになった車、ヘリコプターで人を吊り上げる救助。この数年、何度か繰り返された光景だ。 「線状降水帯」という言葉になじみができたが、列島を横に貫くような広域の水害と、首都圏を中心とする新型コロナウイルスの感染再拡大が同時にやってきたのだ。まずは犠牲者に哀悼の意を、被災者に励ましを送りたい。 あるテレビ番組で、ビートたけしが言った。 「地球温暖化だから毎年毎年、同じ状態が絶対くると思う。去年、今年と珍しい例じゃないんだから、来年、再来年も同じだよ、これ。そうすると毎年同じことをやっていることになるんで、早く大ナタで切るようなドンとした政策をやらないとダメだと思う」 そのとおりだろう。ここで建築の専門家として、その「ドンとした政策」のあり方につながると思われる、日本人の「新しい居住文化」を提案したい。
堤防を高くするより
昨年11月、「相次ぐ水害と過疎化対策に『住まい方改革』を」(「THE PAGE」2019年11月26日配信)という記事を書いた。今回はその続編だ。前回は居住政策の重点を土木(官)から建築(民)に移すべきという趣旨であったが、ここでは日本の居住文化に光を当てる。 水害が出るたびに「堤防を高くしろ」という意見が出て、そのつど膨大な予算が組まれる。しかし予想を超える豪雨に対して、日本中の川の堤防を嵩上げすることは困難だ。たとえば津波に対しても、東日本大震災のあと、その地域に高い防潮堤を築いている。むしろ予測される南海トラフ地震に対して防潮堤を築かなくてはならないのだが、被害想定地域が広大であるから、本気でとりくめば日本中をコンクリートの箱に入れることになりかねない。それよりも4階建て以上の鉄筋コンクリート構造の建築を適切に配置すれば、津波に追いかけられながら高台に走ることもなく、避難場所は確保されるのだ。東日本大震災でもあれほどの死者を出すことはなかったはずである。 このことは東日本大震災のあと、いくつかの新聞に書いて賛同の声も届いているし、前回も詳しく書いている。ここで書こうとするのは、堤防(土木)に税金を投じるより、住居(建築)に関する日本人の意識を変える時期ではないかということである。