「時計製造の父」ブレゲ、超絶・複雑機構をなぜ作れたか 7代目が明かす歴史秘話
ブレゲの創始者、アブラアン-ルイ・ブレゲ氏は、複雑機構の頂点をなす「トゥールビヨン」を開発した偉大な時計師だ。1775年に時計工房をパリに設け、1801年にトゥールビヨンの特許を取得。その後も数々の発明で時計の精度を飛躍的に高め、永久カレンダーや自動巻き機構も開発した。一方で芸術的かつ視認性に優れた時計の装飾や仕上げにも情熱を注ぎ、その美しさに魅了されたフランス王妃マリー・アントワネットや英国の宰相ウィンストン・チャーチルが、ブレゲの往年のパトロンに名を連ねる。 【写真はこちら】「裏面こそ見もの」まである美しさ 記念モデルの裏面を見る! 歴史的トゥールビヨン5作品も必見
■重力との戦い 答えが「トゥールビヨン」だった
現代の時計の礎を築き上げてなお、日夜革新性を追い求め続けた創業者の精神性。その本質に触れたいとの思いを胸に、創業家7代目としてブランドの歴史を研究してきた、ブレゲ副社長のエマニュエル・ブレゲさんに当時の発明の秘話を聞いた。 ――こちらの「クラシック ダブルトゥールビヨン “ケ・ド・ロルロージュ” 5345」は、これまでの時計の概念を超越する機構と美しさを備えています。アブラアン-ルイ・ブレゲ氏は1801年、脱進機を回転させて重力による影響を極力排除した複雑機構「トゥールビヨン」を搭載した懐中時計を発明しました。当時においては驚異的な技術革新だったと思いますが、その誕生の背景には何があったのですか。 「アブラアン-ルイ・ブレゲが生まれたのは18世紀の中ごろで、当時は革新的な電気技術などが生まれた『発明の黄金期』でありました。同時に、ドイツの哲学者ヘーゲルが著した百科事典『エンチクロペディー』が出版され、科学者や物理学者が世界の地理や、地球及び天文に関する疑問を次々と解き明かしていました。時計の技術者は、こうした啓蒙と科学の時代の中心にいたのです」 「彼がなぜ自分の発明した機構にトゥールビヨンと名付けたのか。直訳すれば『竜巻』です。従来は、何かが渦を巻き、回転しているイメージが名前の由来とされていました。でも、実は違うんです。私が文献で調べたところ、地球は回転している、という意味で名前がつけられたというのが正解でした」 「アブラアン-ルイ・ブレゲは時計の精度を保つために、メカニズムの補正、つまり重力を補正しなくてはいけないと考えました。彼の頭の中には天文学があり、どんな動きも重力には逆らえないことを理解していたからです。そこから彼独自のアイデアが生まれました。トゥールビヨンは宇宙の縮小版であり、その名前には地球と天文学という科学的な意味合いが含まれていたのですね。それを知ったのは私にとって大きな発見でした」