「時計製造の父」ブレゲ、超絶・複雑機構をなぜ作れたか 7代目が明かす歴史秘話
■生涯で作ったトゥールビヨンは35本
――アブラアン-ルイ・ブレゲ氏はトゥールビヨンを発明した後も活躍し続けましたね。 「彼にとってトゥールビヨンは発明のごく一部であり、ほかにも時計の歴史に残る偉大な発明をいくつもしています。複雑機構ばかりでなく、シンプルなメカニズムも開発しました。機械式時計に絶対必要な潤滑油は何がよいか、部品として使う石にはルビーが適しているのではないか、といった研究も進めていました」 「現代の時計の中身にはブレゲが発明したものが必ず一つはある、といっても大げさではありません。時計製造の父と言ってもいいでしょう。現代の機械式時計は、たとえ先進的な素材を使っていたとしても、機構などのベースは200年前から変わっていません。ほら、200年たってもアブラアン-ルイ・ブレゲの発明したトゥールビヨンが今も動いているでしょう。ハイテクな機械などは一切使っていないのにね。おそらく彼自身も、自ら発明したトゥールビヨンが現代に至るまで残り、多くの時計の愛好家たちに称賛されるようになるとは夢にも思っていなかったでしょう」 「生涯かけて、彼は35本しかトゥールビヨンを製作しませんでした。そのうち3つは私たちのミュージアムにあります。おそらく残りの3分の2は、現代でも残っていると思います。その所有者はトゥールビヨンを非常に貴重な時計であると理解していたからこそ、完璧な状態で大事に保管してきたはずです。ブレゲが製作した時計は時を超えて、ずっと高い評価を保ち続けてきたのです」 文:THE NIKKEI MAGAZINE 編集長 松本和佳 ※この記事は「THE NIKKEI MAGAZINE」の記事を再構成して配信しています。