終わらない戦争に私たちはどう対峙する?歴史からパレスチナとウクライナを考える――小山哲さんに聞く
2025年、新年を迎えた。去った2024年は、ガザ侵攻やウクライナ侵攻といった、終わらない戦争に思いを馳せた1年でもあったのではないだろうか。長引く戦闘を報道などで目の当たりにし、「なぜ戦争は終わらないのだろうか」と疑問や憤り、悲痛な思いを抱えながら過ごした人もいるだろう。 【画像】2024年7月8日、ウクライナのキーウ 西洋史、特にポーランド史を研究する小山哲・京都大学大学院文学研究科教授は、「大国を中心にした視点を変えて、地べたに立って想像してみることでまったく違う世界が見える」と、「自分ごと」として考える大事さを語る。歴史という長い文脈からパレスチナ、ウクライナについて考える本『中学生から知りたいウクライナのこと』『中学生から知りたいパレスチナのこと』(ミシマ社)の著者のひとりでもある小山さんにインタビュー。 どうすれば戦争は終わるのだろう? 私たちは、どのような視点をもって対峙していけばいいのだろう? じっくりと語ってもらった。
短い時間軸ではなく、歴史の長い文脈からいまの戦争を考える
―『中学生から知りたいウクライナのこと』『中学生から知りたいパレスチナのこと』では、ふたつの戦争を、長い歴史の文脈から考え、その根本を紐解く内容となっていますね。「歴史学」から語ろうとした思いの底には、例えばいまの情勢だけではないところを知るべきだという思いがあったのでしょうか? 小山哲(以下、小山):そうですね。(同書で共著を務めた)藤原辰史さんと共通の思いとしてありました。 ウクライナの戦争も、ガザへの侵攻も、いま現在の時点、情勢だけですべてを語られてしまうことへの違和感がありました。もちろん、テレビや新聞による報道は重要で、必要な情報です。例えば、国際関係や軍事の専門家の方がよく出てきておられて、詳しい説明をなされますよね。 私の場合、専門は近世です。日本の時代区分に当てはめると江戸時代、約400年前のことを普段は勉強してるんですね。そういう人間からすると、たくさん流れてくるいまの情報は、時間の幅のとり方が短すぎる、という思いがありました。もっと長い時間軸でみると、ずいぶん違った世界が見えてきます。ウクライナの問題とパレスチナの問題の関係性も、数百年遡ってみて初めてわかることもあるんですよね。 例えば、イスラエルを建国したときのユダヤ人と呼ばれる人たちって、もともとどこから来たの? ということを考えると、東ヨーロッパ、東欧ロシアから来た人がものすごく多くて、建国の中心にいた人たちが見えてきます。その背景は400~500年さかのぼって初めて理解できる。場合によっては中世まで見ないとわからないことかもしれない。