宇多田ヒカルのLIVEツアー衣装デザインの舞台裏【A-POC ABLE ISSEY MIYAKE × Spiber】
9月1日にファイナルを迎えた「HIKARU UTADA SCIENCE FICTION TOUR 2024」。台北・香港を含む全公演のステージに現れた、美しいLIVEツアー衣装をご存じだろうか。 無数の曲線がグラデーションをともなって絡みあうドレスは、宇多田ヒカルの豊かな歌声がそのままかたちになって体を包んでいるかのようだった。 その衣装はきわめてユニークなコラボレーションによって制作された。デザインは「A-POC ABLE ISSEY MIYAKE(エイポック エイブル イッセイ ミヤケ)」。生地にはバイオテクノロジー企業・Spiber(スパイバー)が開発した「Brewed Protein™(ブリュードプロテイン)ファイバー」が使用されている。微生物発酵技術で生み出されたサステナブル素材である。 ファッションの未来を指し示す、1着のドレス。イッセイ ミヤケのアトリエで宮前義之氏が率いるチームとSpiber社の浅井茜さんに制作の舞台裏を聞いた。
“1枚の布”が秘める広大な可能性
「このドレスは、一枚の布というコンセプトからできています」 実物を目の前に、A-POC ABLE ISSEY MIYAKE(以下、A-POC ABLE)デザイナー・宮前義之さんは話す。 「宇多田さんの最新アルバム『SCIENCE FICTION』からイメージを膨らませてデザインの方向性を決めました。緩やかな曲線状のプリーツが織り込まれた一枚の布をリング状につないで、体のラインにフィットさせながら、有機的でダイナミックなフォルムのドレスを造形していきました」 一見すると、これがひとつながりの生地だとは思えない。客席のどこからでも存在がわかるようボリュームを出すための曲線と、体にフィットさせるための曲線を使い分けながら生地をドレスへと仕立てていく技術は、西洋的な立体裁断とは異なる発想で服作りを開拓してきたイッセイ ミヤケの真骨頂だ。 同時に“A Piece of Cloth(一枚の布)”を意味する「A-POC」のアイデンティティそのものでもある。