宇多田ヒカルのLIVEツアー衣装デザインの舞台裏【A-POC ABLE ISSEY MIYAKE × Spiber】
「宇多田さんの衣装を長年担当しているスタイリストの小川恭平さんやツアーの演出担当の方たちと打ち合わせを重ねて、ステージ衣装としてのデザイン性と機能性を両立させることができました。マイクの持ち方やステージ上での立ち振る舞いなどをヒアリングしてシルエットのバランスを最後まで調整しました。実際に衣装を身に着けた宇多田さんは『見た目よりも軽い』と言ってくれて、うれしかったですね」とパターンを担当した髙橋奈々恵さん。 美しさと機能性を併せ持つだけではない。このドレスにはファッションにおけるイノベーションの結晶と言えるほどの先端技術が詰まっている。A-POC ABLEをこのプロジェクトに招き入れたのは山形に本社を置くバイオテクノロジー企業・Spiberだった。
「微生物の力」がつないだ異例のプロジェクト
「最初は宇多田さんサイドへSpiberからBrewed Protein™ファイバーを使用した衣装をご提供できないかとお話させていただき、企画が進むにつれてこちらからデザイン、制作を担当いただける方を検討、提案することとなり、ご縁あってご参画いただけることになったのが、兼ねてから素材を使用した開発を重ねてくださっていたA-POC ABLEさんだったのです」と語るのはSpiber社でコミュニケーションマネージャーを務める浅井茜さんだ。 Spiber社は独自の微生物発酵プロセスによって、この衣装の素材となる繊維「Brewed Protein™ファイバー」を作り出している。
「Brewed Protein™ファイバーは、目的やニーズに合わせて独自に設計したDNAを微生物に組み込み、発酵によって作り出されます。微生物に与える栄養がいわば原料。現在はサトウキビなどの作物由来の糖を主に使用していますが、サトウキビの搾りかすのような廃棄物も原料として使用可能で、将来的にはそういったゴミとされているものを主原料として新たな素材生産に有効活用できる、そんな循環型の素材がBrewed Protein™です。繊維のほか、レジン、フィルムなど、多様な素材形態に加工ができます」(浅井さん) 微生物が発酵によって作り出したタンパク質はパウダーの状態で生成され、それを溶液に溶かしシャワー状のノズルから連続的に押し出し繊維状にしていく。 「A-POC ABLEさんなら、Brewed Protein™ファイバーの可能性を最大限に生かしていただけると思いました」(浅井さん)