夏も練習したいのに… 熱中症対策と地域の理解 部活指導者と生徒が悩むジレンマ #こどもをまもる
一方、こうした運動指針だけに頼って、自治体がルールを一本化することに疑問が残る。 「『熱中症予防運動指針』をつくれば、それぞれのスポーツ現場で物議を醸すことは予測していました。スポーツの特性や運動強度、子どもの体力などによって状況は異なりますから、指針はあくまでもベースとし、現場が考えて議論し合い決めることが重要です。例えば、ベンチで休む時間がある野球と、継続的に走り回っているラグビーでは、試合中の運動量がまったく異なる。競技別に指針をつくるべきです」(川原さん) そもそも気温35℃を超える時間帯に練習すると、練習の質が低下するのでトレーニング効果も低下してしまうという。 「追い込む練習も時には必要ですが、それは涼しいときにやればいい。トレーニング効果を上げるために、なるべく暑くない環境で質の高い練習をしようと考えれば、熱中症は起きないと思うんです」(川原さん)
「スポーツの概念や常識を変えるとき」生徒自身の体調管理も重要
横浜市立港南台第一中学校では、3年前の夏休みから11~14時の時間帯での屋外の部活動を中止した。県大会や全国大会に進む選手が輩出する同中学陸上競技部顧問・田島聡さん(49)に熱中症対策を聞くと、夏休みの間、長距離選手は午前中に練習。水やスポーツ飲料をこまめに補給することを生徒に言い続け、氷のうに氷を入れて渡したり、気温が急上昇する5月からテントを立てて日陰をつくったり、首や手足にかけるスポンジと氷水を入れたバケツを設置。帰宅前などにすぐ体を冷やせるように、どの部活動も利用できる冷房を利かせた教室も用意している。 また、ミニハードルなどを使って短時間で心拍数が上がるウォーミングアップを行うなど、質を高めて練習時間を短縮する工夫も。「体調を考えながら、走る本数は自分で決めなさい」「水分補給も含め、2年生が1年生の手本になりなさい」など、生徒自身が自分の体調管理を考えて行動できる教育も意識しているという。 「自己申告も判断材料になります。今の中学生は、我慢せずすぐにしんどいと言う子が多いので(笑)。昔に比べて、夏は追い込んだ練習ができなくなり、長距離練習を早朝にしたくても、そんな時間帯に子どもが集まっているだけで不可解に思う近隣住民は多く、理解が得られにくいのがジレンマでしょうか」(田島さん) 世界的な気候変動が指摘されている今、今まで通りのスポーツの在り方でいいのかと我々は問われている。川原さんはこう語る。 「頻繁な水分補給や休憩などの熱中症対策は続けながら、『練習や試合を夕方以降にする』『夜でも安全に運動できる公共施設をつくる』『8月の日中には試合はしない』など、これまでのスポーツの概念や常識を大きく変えるときではないでしょうか。心身の成長に関わるスポーツを子どもたちが続けられるように、指導者や保護者はもちろん、酷暑の時間帯を外してスポーツをする方法や公共の室内施設を使う方法などに関しても、国や自治体、地域住民が一緒に知恵を出して考えていく必要があると思います」
--------- 高島三幸 編集者、ライター、女性コンディショニング研究家。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程修了。フリーランスで雑誌やWEB媒体、企業媒体などに執筆。元実業団陸上競技短距離選手。