「ドアを開けたら、くの字になって倒れていた」遺体の第一発見者はヘルパーだった…孤独死を支えきれない訪問介護、その深刻な〝綱渡り〟
ヘルパーの中崎順子さん(73)は夏のある朝、いつものように利用者宅を訪れた。この家に住む80代の女性の朝食を準備するためだ。ところが、ドアをノックしても応答がない。普段は扉越しに返事が聞こえるのに。鍵でドアを開けて中をのぞいた。すると、居間に敷いた布団の上で、女性が仰向けに倒れている。顔色が青白い。亡くなっている。 【写真】「本籍・住所・氏名不明、年齢75歳ぐらい、女性、身長約133cm、中肉、右手指全て欠損、現金34,821,350円」 2020年4月26日午前9時5分ごろ、尼崎市のアパートの一室で女性の遺体は見つかった 「かなり不思議な事件」一体誰なのか… ミステリーを追う(前編)
「まさか亡くなるなんて」 すぐに110番し、ケアマネージャーにも来てもらったが、遺体を目の当たりにした精神的なダメージは大きい。女性のためにもっと何かできたのではないかと自分を責める気持ちにもなった。これから警察官に事情を聴かれるはずだが、次の訪問先には間に合うのだろうか―。 訪問介護のヘルパーが、死亡した利用者の「第一発見者」になるケースは少なくない。独居の高齢者が多いためだ。利用者の生活を支えるため、それぞれが懸命に手を尽くしているものの、介護報酬は削減され、人手不足が深刻化。現場は「綱渡り」のような状況という。実際に何が起きているのか。(共同通信=山岡文子) ▽「できることは何でもやりたい。でも…」 中崎さんが第一発見者となったこの女性には特に持病はなく、デイサービスに通っていた。ただ、認知症が進行して失禁を繰り返すようになり、ペットボトルのふたを開けることもできなくなった。
ケアマネは、遠方に住む息子にショートステイや施設の入所を提案しようとしたが、なかなか連絡が取れない。女性に日々接する中崎さんは、歯がゆさを感じていた。 「ヘルパーとして、できることは何でもやりたいんです。でも本人や家族の了承がないとできないこともたくさんあって…」 最後に訪問した日は暑かった。女性に「水分を取ってくださいね」と呼びかけると「うんうん、分かった」という返事。スポーツドリンクは味が気に入らなかったようで、手を付けていなかった。遺体を発見したのは、その2、3日後だ。 近くの交番から警察官が駆け付けた。この家の状況は交番でも把握していたとみられ、事情聴取は短時間で済んだ。中崎さんは次の訪問先へ。自転車をこぎながら「気持ちを切り替えよう」と自分に言い聞かせる。次の利用者宅に着き、「遅れてごめんね」となんとか笑顔を見せられたという。 女性の死因は老衰だった。息子はやはりすぐに連絡がつかず、遺体は警察署に数日間、安置されたと後で聞いた。中崎さんが以前の事業所に勤務していた7、8年前の話だ。現在は埼玉県志木市の「こころ訪問介護事業所」でヘルパーを続けている。