夏も練習したいのに… 熱中症対策と地域の理解 部活指導者と生徒が悩むジレンマ #こどもをまもる
暑さ指数で試合中止も…「納得できない」子どもたちの声
6月中旬、横浜市の中学陸上競技記録会に足を運んだ。正午時点で天候はくもりのち晴れ、気温は30℃で湿度50%。座っているだけで汗がにじむ。 競技場のゴール付近にはミストシャワーが設置され、走り終わった選手が体を冷やす。競技の合間に熱中症を注意喚起するアナウンスが流れ、電光掲示板には「こまめに水分補給してください」と定期的に表示されていた。記録会は1日がかりで実施。電光掲示板のメッセージは、選手だけなく、屋根のないスタンドで観戦する保護者や生徒、審判に向けても発信されているように見えた。 中学生たちに話を聞くと、100mのレースでは男子が78組、女子も50組以上あり、「スタートまでの待ち時間が、日陰がなくて暑かった」という声が上がった。走り高跳びに出場した生徒は、テント下の日陰に入って意識的に水分を補給し、汗をかくので着替えも準備して臨んだという。母親の指示でミネラル入り麦茶を持参していた子もいた。普段の練習でも、こまめな水分補給や日陰で休むなどの熱中症対策をしているが、雨の日に60人近い部員が校内に入って練習するときのムッとした湿気で、気分が悪くなるという意見もあった。 「暑さ指数」について詳しく知らない子もいたが、これによって部活動や試合が中止になることについて意見を聞くと、動揺する声が上がった。 「試合前に練習できないと不安」 「うーん……、熱中症にはなりたくないけれど中止は困る」 「せっかく練習したのに試合が中止になるなんて納得できない」 こうした子どもの声に、大人たちは何ができるのだろうか。
早朝・夕方に練習したいが…自治体の施設使用許可が出ず
「暑さ指数31℃」を避けるには、涼しい時間帯に運動すればいい。だが、子どもたちが運動するのに使える場所は限られている。 会社役員の塩津裕一さん(65)は、27年前から千葉県印西市のスポーツ少年団で毎週土日の朝9時から2~3時間、80人近くの小学生にボランティアでサッカーを教えている。夏休みの間だけでも、練習時間を朝6時などの早朝や夕方に変更したいが、小学校のグラウンドの利用時間は9時から17時まで。9時前や17時以降にグラウンドを使わせてくれないかと働きかけたが、近隣住民やグラウンドを管理する自治体側の理解が得られないと、頭を悩ます。 「グラウンドが広いので、住宅街から遠いエリアのみ、早朝や夕方以降に利用できれば、暑さはだいぶしのげますが、使用許可が出ません。市のスポーツ振興課の主な業務は、近隣住民からの苦情対応などの施設管理で、熱中症対策は守備範囲外のように思います」(塩津さん) 学校体育館でのトレーニングも検討したが、ボールを蹴る威力が強く危険、かつ体育館の耐久性も不明という理由で、サッカーの利用はNG。リフティング用の柔らかいボールを使用し、「シュート禁止」などのルールを設けたコンディショニングトレーニングを提案したが、それでもスポーツ振興課の許可は下りなかった。塩津さんの表情からは憤りがにじむ。 「大会は夏を外して開催すればいいと思いますが、練習が悩みの種です。ナイター練習ができる照明が設置された公共施設が理想ですが、まずはグラウンドにスプリンクラーを設置するだけでも暑さが緩和されると思います」 環境省・熱中症予防情報サイトで、印西市の隣、佐倉市の「暑さ指数」を、2014年8月と2023年同月とで比較すると、「暑さ指数31℃以上を記録した日数」は12日から31日と、倍以上に増えている。時間帯を見ても、昼前後だけ暑さ指数が高いわけではなく、2023年は朝8時から「暑さ指数31℃」を超えている日が22日もあり、それが夕方4時ごろまで続くので、ずっと「運動は原則中止」の状態だ。ガイドラインを厳密に守れば、午前中から夕方まで練習ができないことになる。 暑さを避けようと思えば、早朝か夕方に練習時間を変えるしかないが、子どもたちがその時間に運動することについて、自治体や近隣住民の理解が得られない。ここでも「ジレンマ」だ。