経血漏れで試合敗退の事例も――現場から変える、女子柔道界の月経問題 #性のギモン
今日5月28日は「月経衛生の日」。柔道の指導現場で月経や女性の身体についての課題を共有し、環境改善につなげようという動きが活発化している。全日本柔道連盟によると2022年度の全国の個人登録者(選手、指導者、役員)のうち、女性の割合は約20%。「指導者・役員」に限ると約7%にとどまっており、女性の声が反映されにくい環境にある。とりわけ月経についての理解は進んでおらず、経血漏れなどの困りごとはほとんど放置されてきた。そんな現状を変えようと、埼玉県の女性柔道家が女性の身体に関する課題をオープンに語り、伝え始めた。(取材・文:佐藤温夏/撮影:桜井ひとし/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
経血漏れで敗退も。ルール上に月経について記載なし
柔道の場合、試合中の経血漏れは、何が何でも避けたい困りごとだ。経血漏れが続くと、最悪の場合、敗退となってしまう。 現在、国内外で採用されているルールでは、試合中、負傷による出血が認められた場合、救護スタッフによる止血処置を受ける必要がある。回数は2回までと決められており、2回目の止血処置後も同じ部位からの出血が続いた場合、その選手は試合続行不可能とされ、相手選手に「棄権勝ち」が与えられる。つまり、出血した選手の負けとなる。 経血漏れもこのルールが適用される可能性がある。全日本柔道連盟の大迫明伸審判委員長によると、「ルール上に月経についての記載がないため、出血があることから負傷と同様に扱われるか、試合ごとに判断されることが想定される」という。 負傷と同様に扱われる場合、選手は止血処置として、試合場を離れて経血が染み出た柔道衣(じゅうどうぎ)の下ばきを着替えたり、生理用品(ナプキンやタンポン等)を取り換えたりする。しかし、このような止血処置を2回行ったあとも経血漏れと認められる状態が続いた場合、試合続行不可能と判断され、棄権することとなる。
月経は経血量も周期も、月経に伴って起こる体調変化も含めてコントロールしきれない生理現象だ。試合時の経血漏れを防ぎきれないことは当然あるだろう。女性柔道家に尋ねると「経血漏れで棄権敗退となるケースはまれだと思う」としながら、試合の朝、会場に入ってから突然月経が始まるのは「よくあること」という答えが返ってきた。 「とくに思春期の場合は珍しいことではないと思いますよ。この時期は周期が不安定ですし、試合当日は緊張やストレスがホルモンバランスに影響を与えるのだと思います」 そのため、選手は試合場に下ばきの予備と生理用品を必ず持参する。万が一、用意のない日に月経が始まった場合はチームメイトから借りてしのぎ、それができない場合は、ライバルも含め、会場にいる誰かにSOSを出す。 「そうすると必ず誰かはいるわけです、『あるよ~』という人が。そうやって女子同士、敵味方を超えて協力して乗りきるんです」 ただ、こうした連帯をいつも頼れるわけではない。例えば参加人数の少ない小規模な大会では難しいこともあるだろう。実際に2023年、ある地方都市で開催された大会で、試合中に経血漏れが確認されたが、着替えや生理用品の用意がなかったことから続行不可能になったケースがあったという。 では、試合場に配備される救護担当の医師や柔道整復師らは、生理用品の提供などの止血援助はしないのだろうか。全日本柔道連盟の三上靖夫医科学委員長に尋ねたところ、「救護スタッフは試合中の負傷に対して止血を行いますが、経血漏れの止血は救護スタッフが行うことはできないため対象としていません」。ルール上に月経についての記載がないため、止血援助は想定していないとのことだった。 大迫審判委員長によると、現在のところ月経に関するルール整備については国内外ともに議論が起きていないそうだが、「経血漏れに関する問題意識は国内の関係者の間では共有されており、何らかの対策を講じる必要性は感じている」と話す。同連盟では2023年、医科学委員会が中心となり、女子選手と指導者を対象に身体とコンディションに関する調査を初めて実施。女子選手の柔道環境と医療的課題についての実態把握に乗り出している。選手の尊厳を守るためにも、課題解決が急がれる。