部屋に響いた長女の悲鳴──山田ルイ53世、娘に“正体”を明かした一世一代の「ルネッサンス」
「ねー?」と妻に煽られるまま、「『エンタの神様』とか『逃走中』とか……」とかつて筆者が出演し、娘も知っていそうな番組を並べてみるも、「へーそうなんだー……」と反応はいまいちだ。 ところが、「あー、あれの声やったなー……」とアニメ「HUGっと!プリキュア」で悪の組織の下っ端役を演じた話をした途端、「えー、すごーい! なんで言ってくれなかったのー!?」と態度が一変。さすがはプリキュア……偉大である。 わが子の瞳に宿る尊敬の念にも似た輝きに、(伝えて良かった!)とご機嫌の筆者だったが、調子に乗って仕事を隠していたことをどう感じていたのかと尋ねたのが藪蛇。 「アタシには『ウソついたらダメ!』っていっつも言ってるのに、パパがウソついてるじゃんって(思ってた)!」……ぐうの音も出ない。
“貴族の娘”の片りん
あれから3カ月が経った。長女には特に変わった様子もない。変わったのは筆者である。 「今回は俺が行くわ!」と宣言した授業参観の件もそう。いや、言われた妻も、ビックリしたに違いない。 運動会など学校行事に足を運んだことは何度もあったが、娘との関係性を周囲に気取られぬよう、家族から離れて常に他人のふり。教室のようなこぢんまりとした空間ではそれも難しいと、参観日は妻に一任していたからだ。
当日、仕事の都合で少し遅れた筆者。 他の保護者に混じって、額の汗を拭っていると、窓際の席に娘を発見する。家人が誰も来ぬとすねているのか、背中を丸めてつまらなさそうだったが、ほどなく筆者に気づくと、初めての父の姿に目を丸くし、そして、照れくさそうにニカーッと笑った。 「これ説明できる人!」と先生が黒板を指示棒でコツコツとやっている。さっきまでと打って変わって、背筋をピンと伸ばした長女が、ゆっくりと手を挙げた。 さすがは貴族の娘。 優雅な身のこなしに、「ルネッサーンス!」……などと喚きはしないが、「おっ、うちの子!」と誰にともなくつぶやいた。まあ、ずいぶんと遠回りしたが、筆者のパパ稼業もようやくスタート、そんな気分である。 --- 山田ルイ53世 お笑いコンビ・髭男爵のツッコミ担当。「新潮45」で連載した「一発屋芸人列伝」が、「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞 作品賞」を受賞。近著は『パパが貴族』(双葉社)。
山田ルイ53世