部屋に響いた長女の悲鳴──山田ルイ53世、娘に“正体”を明かした一世一代の「ルネッサンス」
2022年4月某日。タキシードに身を包み、シルクハットを頭に載せ、「いやいやいや、どーも~……ルネッサァァァーーンス!!」と筆者は舞台へと飛び出した。幾度となく繰り返してきた、いつも通りの登場だったが、顔はこわばり、手は震えと異常なまでの緊張感。いや、無理もない。この日のステージは、“わが家のリビング”。客はたったの1人だが、それが自分の子供……長女(現在小4)となれば、調子も狂おうというものである。 今年3月、福岡PayPayドームで始球式の大役を務めたが、よもや2万の観衆のプレッシャーを小学生のそれが上回り、正真正銘のホーム(自宅)をアウェーに変えてしまうとは思わなかった。 全ては、このあとに控えた演目のせい。「漫才」でも「ギャグ」でもなく「告白」……わが子に隠し続けてきた父の正体を打ち明けようとしていたのである。(取材・文:山田ルイ53世、写真:石橋俊治、Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
10年寝かせた“ウソのワイン”
筆者の職業は漫才師。コンビ名を髭男爵という。 「ルネッサーンス!」の人、ワイングラス片手に「○○か~い!」とツッコむ自称貴族、まあ、何でもいいが、“あれ”である。重ねた芸歴は早20年を超え、一度は売れっ子と呼ばれた時期もあったが、現状サッパリの一発屋。この“一発屋”という言葉こそ、(まだ3歳の次女はさておき)自分の仕事を、かれこれ10年近く長女に説明しなかった理由だった。
筆者自身は恥じてなどいない。大した才能に恵まれもせぬ割によくやったと自負しているくらいである。しかし、まだ小さな子供にとってはどうだろう。 何かの拍子に幼稚園や小学校で、クラスメートの知るところとなり、「○○ちゃんのパパって、売れてないの?」とイジられるような事態を招いては目も当てられぬ。負けや失敗といった苦み成分を含む“一発屋”という肩書に、娘が触れるのは時期尚早との決断だった。 ただでさえ、苦みにはなじみがある筆者。現在47歳だが、その大部分を、「中2の夏から不登校」とか「20歳手前まで6年間のひきこもり生活」といった挫折にまみれ、(人生が余ったなー……)との虚無感にとらわれて生きてきた。 自分のことを語れば、いや、ハッキリ口にせずとも、ボロ着のような半生のシミや臭みが、一挙手一投足ににじみ出し、真っ白なワンピースさながらの娘の将来を汚してしまわぬかと怖かったのかもしれぬ。 かくして、“フレキシブルに働くサラリーマン”などと偽ってきたわけだが、心境の変化をもたらしたのは、数年かけて話を聞いてきた、一発屋パパ・ママの存在だった。 筆者と似たような心配事を抱えながらも、運悪く、あるいは、なし崩し的に正体がバレた、コウメ太夫とムーディ勝山。ジョイマン高木やテツ(テツandトモ)は自ら子供に伝え、レイザーラモンHG夫妻に至っては、はなから隠す気がなかった。 発覚の経緯はそれぞれだったが、共通点が1つ……みんな楽しそうに暮らしていたのである。(うらやましい……)と仲間たちの生きざまに背中を押され、10年寝かせた“ウソのワイン”、その栓を抜くこととなった次第。大騒ぎするのもお許しいただきたい。