パウエル議長はジャクソンホール講演で「出口」ほのめかすか?
FRB(米連邦準備制度理事会)による金融政策の変更はあるのか――。昨年に引き続きオンラインで8月27日に行われる経済シンポジウムに、市場関係者が熱視線を送っています。第一生命経済研究所・藤代宏一主任エコノミストの解説です。 【グラフ】目立つ日本株の弱さ 鍵を握るのは…データから見る
●第2のFOMC
毎年8月に金融市場が注目するイベントの一つに米カンザスシティ連銀が開催する「ジャクソンホール会議」というものがあります。ジャクソンホールとはワイオミング州にある地名で、ホールとは山に囲まれた地形が「穴(hole)」のようであることが由来だそうです。 このイベントは、1978年に初めて開催され、当初は各国の中央銀行総裁や経済学者が集結して金融政策に関する調査・研究を発表し、それを現実の金融政策にどう活かすのかを議論する「学会」のような位置付けでした。しかしながら、2010年に当時のFRB議長だったバーナンキ氏が、この場で「QE2」と呼ばれる量的緩和第2弾の開始を示唆する発言をしたことで、その位置付けは微妙に変化しました。 通常であれば具体的かつ重要な金融政策は、定例開催されるFOMC(米連邦公開市場委員会、日本の金融政策決定会合に相当)で言及します。もっとも、バーナンキ議長はジャクソンホール会議をQE2発表の場として利用することで市場参加者の意表を突き、サプライズを演出し、株価上昇の起点を作ることに成功しました。それ以降、市場参加者の間ではジャクソンホール会議が「第2のFOMC」との認識が広がり注目度が高まりました。 また2014年にはECB(欧州中央銀行)総裁だったドラギ氏が、ユーロ圏のインフレ率低下に警戒感を示し、その対応策として「量的緩和導入」の必要性に言及し、その直後に開催されたECB理事会で量的緩和の導入が決定された経緯があります。
●雇用統計待ち
今年の注目はFRBのパウエル議長です。目下、米国では量的緩和の終了に向けて、その「終わりの始まり」を模索しており、早ければ9月FOMCで量的緩和の段階的縮小、いわゆるテーパリングが決定される可能性があるため、ジャクソンホール会議での講演でパウエル議長がそれを「ほのめかす」か否かに注目が集まっています。 もっとも、筆者はパウエル議長がテーパリングについて具体的言及を避けると予想しています。主な理由は2つです。 1つめは「雇用統計待ち」です。現在、米国の失業率は5.4%です。パンデミックの最悪期につけた15%程度から大幅に低下したとはいえ、パンデミック発生前に比べると2ポイントほど高い状態にあり、完全とは言えません。それでも一部の市場参加者が早期のテーパリング開始決定を予想するのは9月以降に失業率の大幅低下が期待されているからです。 現在、米労働市場は失業率の高止まりと企業の人手不足感が併存する異様な構図にあり、その要因として“美味しすぎる”失業給付の特例措置があります。コロナによって失業を強いられた労働者は、通常の失業給付に加えて毎週300ドルの特例給付を受け取れるため、就職機会が豊富に存在するにもかかわらず、復職をためらっている人が相当数存在するとみられます。 その特例措置は9月6日に終了予定ですから、その頃に多くの人が復職を果たせば、失業率は一段と低下し、テーパリング開始の条件が整います。現時点で得られるデータから判断して、その蓋然性が高いのは事実ですが、8月雇用統計(9月3日発表)すら入手できていない状態でテーパリング開始をほのめかすのは、やや早計であると筆者は考えます。FRBが安全運転を心掛けるなら、次回のFOMC(11月)まで待つ可能性が高いと言えます。