コロナ禍から著しい回復基調 米景気は「過熱」なのか?
米国では新型コロナウイルス流行による経済ダメージからの著しい回復が見られています。4月に発表された雇用統計などの経済指標が軒並み大きな伸びを示しているからです。しかしこの現状はリスクをはらんでいると警戒する見方もあるといいます。第一生命経済研究所・藤代宏一主任エコノミストの解説です。 【グラフ】米雇用統計は大幅改善か 進むワクチン接種「飲食店」復活の兆し
物価急上昇リスクを指摘する声
米経済は3月に目覚ましい回復を遂げた後、4月もその勢いを保っているとみられます。3月の雇用者数は前月比92万人増加し、企業景況感を示すISM景況指数は製造業が64.7と1980年代以降の最高を更新、サービス業は63.7とこちらは1997年の統計開始以来の最高水準を記録しました。 こうした米経済指標については、それを「過熱」と警戒する声が一部にあり、今後、物価が急上昇するリスクも一部でささやかれているようです。1月に支給された一人あたり600ドルの給付金と、約1.9兆ドルの景気対策パッケージの柱である一人あたり1400ドルの給付金効果が、米経済の7割を占める個人消費を既に強く刺激していますから、そうした下で企業の投資が活発化するなどして経済全体が回復力を増せば、物価上昇圧力が行き過ぎてしまうとの見方でしょう。 もっとも、上記のISM景況指数の高水準到達は「前月からの変化」に着目した数値であることに注意が必要です。通常の景気サイクルにおいて、ISM製造業景況指数の60突破は2000年代以降で6回(通算6か月)、サービス業は7回しか経験したことのない高さですから、確かに経済活動が過熱とも言うべき状況にあることを意味する数値です。
コロナでの「落ち込み」埋める動き
しかしながら、今回は例外的状況に思えます。というのも、最近の米国は「前月からの変化」でみると持続不可能なほどのペースで改善している一方、生産活動のレベルそのものは依然コロナパンデミック発生前を下回っているからです。鉱工業生産統計で生産高の水準を確認すると前年同月比で4%も下回っており、設備稼働率も「フル稼働」に近い状態を意味する70%台後半には程遠いレベルです。 今年2月中旬以降、米国ではコロナ感染状況が好転し、3月に入った後はワクチン接種の進展に伴う安心感などから多くの業種で景況感の改善が報告されました。その理由は「挽回生産」や「先送りされた需要の発現」で説明されるように、それ以前の落ち込みを埋める動きが一気に噴き出たことです。 つまり、足もとの米経済は持続不可能なほどのペースで「前月から」改善しているものの、水準感を考慮すると、過熱という言葉がなじむ状況ではありません。物価が急上昇するリスクも指摘されていますが、物価が持続的に上昇基調を強めるのは経済活動の水準が十分に回復し、なおかつ方向感も勢いを保つ局面です。現在の米国は、良くも悪くも、経済の過熱を心配する状況にはないと思われます。
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