“ラストラン”大迫傑が6位入賞も…なぜ日本男子マラソン勢はメダルに手が届かなかったのか?
東京五輪2020のエリウド・キプチョゲ(36、ケニア)は美しくて、とにかく強かった。男子マラソンの世界記録保持者で、非公認レースではサブ2(2時間切り)を成し遂げた“生きる伝説“が8日、東京五輪の男子マラソンで北の大地を疾走した。 ギアを入れたのは30.5km付近から。35kmまでの5kmを14分28秒までペースアップ。先頭集団にいた他の10人のランナーを簡単に突き離して、独走態勢に入る。キプチョゲは40kmまでの5kmも14分56秒で走破。42km付近で一度だけ後ろを確認すると、ウイニングランを楽しんで栄光のゴールに飛び込んだ。 優勝タイムは2時間8分38秒。後続に1分20秒以上の大差をつけた。後半のハーフを1時間3分23秒で突っ走った計算になる。そして、アベベ(エチオピア)、チェルピンスキー(東ドイツ)に続く五輪連覇を悠々と達成した。 出場者の自己ベストは2時間1分39秒のキプチョゲが最高で、2時間3分台が3人、2時間4分台が5人出場していた。そのなかでローレンス・チェロノ(33、ケニア)が4位に入っただけで、他の3~4分台ランナーは「入賞」すらできなかった。 ペースメーカーを置かないチャンピオンシップは「速さ」だけでなく「強さ」も求められる。キプチョゲだけが秋のレースを走っているかのような軽快さだったが、他の選手は過酷な戦いを強いられていた。 日本勢では「現役ラストラン」を表明していた大迫傑(30、Nike)がクールで熱い走りを披露した。無駄なペース変化に対応しなくていいように、集団後方で静かにレースを進める。給水の度にキャップを取り換えるなど、身体のアイシングにも神経を注いだ。 トップ集団は徐々に削られていき、30km通過時で11人に絞られる。その後、キプチョゲのスパートで集団がバラバラになると、大迫は8番手に振り落とされた。 しかし、ここから大迫が粘りの走りを見せる。過去のマラソンと同じく、終盤に順位を上げたのだ。36km手前で2人をかわして、6位に浮上。4人の2位集団は約100m先にいる。もしかしたらメダルに届くのではないか。そんな“夢”を見させてくれた。 ゴール直前、大迫は左手で小さくガッツポーズ。沿道に手を上げると、笑みもこぼれた。メダルには届かなかったが、2時間10分41秒の6位でフィニッシュ。日本勢9年ぶりの入賞を果たした。 「応援をしてくれた人たちや協力してくれた方々に感謝の気持ちをこめてやり切ったという思いを走りで表現しました。痛みとの戦いだったんですけど、順位はどうであれ最後までしっかり走り切れたことに関しては、自分に100点満点をあげたいです」 大迫は涙をタオルで抑えながらインタビューに応じた。 終盤は右脇腹を押さえるシーンもあり、39km付近では脚もつりそうになったという。それでも前を向いて東京五輪を駆け抜けた。完全燃焼といえる激走だった。